〝トランジション〟(14)-決断できるリーダーを増やす
「対話で変える!」第34回
欧米企業と比べ、日本企業は生産性が相対的に低いと言われています。意思決定が遅い、責任の所在が明確でない、などが要因として挙げられています。特に、トップリーダーによる決断のスピードは組織全体に大きく影響し、生産性の差として顕在化しているケースが多いと言われています。
ある会社の社長は、人の話を聞き、とても人望がある方のようでした。しかし、部下からは、「うちの社長は、何も決めないし、リスクも取らない」 という声も聞こえてきました。
「いいとは思うけど、もう少し検討してから」
このタイプのリーダーがよく使うフレーズです。主語を言わず、期限も決めず、抽象的で、なかなか物事を決められない傾向があります。
一方、スピードのある日本人社長と、先日お会いする機会がありました。テーマは、「スピード感をもち決断ができる役員を増やす」ことでした。早速、コーチング・プロジェクトについて議論を始めると、具体的な質問を次々と飛ばしてこられました。
「決断できる役員を増やすために、コーチングはどう機能するのか?」、「誰がどういう組み合わせでコーチングを受けるといいか?」、「年度末までに成果を上げるためには、いつまでにプロジェクトをスタートすべきか?」
納得するまで質疑応答を終えると、社長はすぐに実施することを決め、こちらも面食らうほどのスピード感でした。
そのプロジェクトでは、速やかに決断することのメリット・デメリットを洗い出し、決断できるリーダーが備えているスキルやプロセスについて、役員間で議論し合う場を創りました。そして、コーチからの質問やフィードバックを通じて、あらゆる角度や視点から現状を俯瞰し、それらを“自分事”として捉えることを意識するようになりました。
その結果、開始からたった3カ月ほどで目に見える変化が出てきました。
「成果をいち早く上げる」という社長のコミットメントや考え方を、役員がより深く共有できるようになり、検討と決断が早いリーダーになるために、自分はどう変わるのかを常に考え、行動できるようになってきました。
さらに、コーチングを受けたことで、決断するための基準やリスク、その想定される結果を、役員間で日々対話するようになりました。それにより、価値観や方向性をすり合わせることができ、より容易かつスピーディーに「決断できるリーダー」へと変わることができたのです。
日本企業のグローバル化には、スピード感をもった決断できるリーダーが不可欠です。そうしたリーダーを物理的に増やすため、コーチングを導入する企業も増えてきています。(次回は10月第1週号掲載)
【執筆者】
竹内 健(たけうち・たけし) エグゼクティブ・コーチ(COACH A USA 取締役 CFO)
PricewaterhouseCoopers LLPにて異例の日米5都市を異動しつつ、公認会計士として日米欧の企業や経営者を20年近くサポート。その経験を通じ、ソリューションの提供だけでなく対話を通じた人や組織への投資があってはじめてクライアントのパフォーマンスが継続的に発揮されることを痛感。これまた異例の会計士からの転身をはかり現職。