〝トランジション〟(13)-熟考するということ
「対話で変える!」第33回
ニューヨークの日本人駐在員は、東京とほぼ昼夜が逆転していることもあり、昼間は現地での業務、朝晩は日本本社との電話で、日本にいた時とは異なる必要性に迫られ、長時間労働を強いられています。実際、お目にかかる方々の中には、日々の業務をこなすので精一杯で、かなり疲れておられる方も多くいらっしゃいます。
そんな生活を送る駐在員のひとりであるAさんは、最近、コーチングを受けている経営者Bさんの話を聞く機会があったそうです。BさんもかつてはAさんと同様、朝から晩までただただ目の前のことをこなす日々を送っていました。しかし、今年の初めからコーチングを受け始めてから、自ら設定したテーマをじっくり考え尽くす時間をとるようになりました。
目の前のTo Doよりも、中長期的な重要テーマを設定し、どうすれば目指す結果を手に入れることができるのか、備えるべきスキルや情報は何なのかについて頭をフル回転させ、徹底的に考える時間にしています。
業務に追われる日々は変わらずとも、定期的に熟考する時間を作ったことでBさんは精神的に余裕ができ、慌てたりイライラしたりすることが少なくなりました。先のことを落ち着いて考える時間をとったことで、ビジョンや目標がより明確になり、それに向かってやるべきことがはっきりし、逆に後回しにできるタスクがあると分かったことが大きいようです。
それを聞いたAさんは、自らもコーチングを受けてみることにしました。すると、それまでは「忙しい」、「時間がない」が口癖だったAさんですが、それは自分が目の前のタスクに振り回されていただけだったことに気づきました。
明確なビジョン、それを実現するためのマイルストーンやゴールがなければ、タスクの取捨選択もできず、また、それをこなすことで仕事をした気分にもなっていたそうです。
コーチングでは、短期的な目標やゴールよりも、日頃あまり深く考える機会がない中長期的かつ重要度の高いテーマについて熟考することにより、新たな視点を得て、本当に必要なリソースや情報を選択、獲得できる能力を備えていきます。
あらゆることにスピードが求められる情報化・多様化している現代社会ですが、そういう時代だからこそ、熟考することの重要性、効用が注目されてきています。
(次回は8月第4週号掲載)
【執筆者】
竹内 健(たけうち・たけし) エグゼクティブ・コーチ(COACH A USA 取締役 CFO)
PricewaterhouseCoopers LLPにて異例の日米5都市を異動しつつ、公認会計士として日米欧の企業や経営者を20年近くサポート。その経験を通じ、ソリューションの提供だけでなく対話を通じた人や組織への投資があってはじめてクライアントのパフォーマンスが継続的に発揮されることを痛感。これまた異例の会計士からの転身をはかり現職。