〝トランジション〟(9)現地化の意味
「対話で変える!」第29回
日系企業の経営者からは、「現地化を早めたい」という言葉をよく耳にします。これは、私が日本から赴任してきた15年ほど前から変わりません。
多くの方は、「現地化」を、「日本人駐在員(※)に代わって現地採用(ローカル)社員が現地子会社の経営者や幹部に登用されること」と、定義づけしているようです。
理由はいくつかあるようですが、なかでも「現地のことは現地の人間が一番よく理解しているはず」ということが広く共通認識になっているようです。それにより、業績向上に直結しやすいと考えられているのでしょう。
一方、先日、ある経営者の方が、「真の現地化とは、ローカル社員の成長だけでなく、日本人自身も現地のことを深く理解し、ローカル社員とともに活躍できるようになることではないか」とお話されているのが印象的でした。なぜなら、ローカル社員に任せるだけでは、日本人社員や経営幹部は現地のことをなかなか理解できず、相互に新たな視点を持ち込み、互いの強みを活かしたシナジーが生まれにくくなるからだそうです。
その話を聞き、日本人が現地の理解を深め、互いにパフォーマンスを高める目的でコーチング・プロジェクトに取り組むある企業のことを思い浮かべました。
この会社ではまず、「本社が上、現地子会社が下」という長年にわたって無意識に一般化していた意識・言動を捨てることから始めました。そもそも、関係が「上下」である時点で、一方は指示・アドバイスし、他方はそれに従い実行する、という図式が成り立ちやすくなります。相互にフラットな関係であれば、主従関係ではなく、本音による創造的な対話が生まれやすくなり、相互に納得感の高い目的やゴールを共有しやすくなる、ということを期待したのです。
さらに、日本人社員とローカル社員が一対一のペアとなり、「相手の目標」について対話する時間を定期的にとっています。相互理解を深めるとともに、「相手のためにできること」や、異文化や背景の異なる人たちがひとつの組織内で協業するメリット、活かす方法などをテーマに話しています。
日本人とローカル社員による「日常に組み込まれた対話」は、自分たちにとっての「現地化」の意味を深く掘り下げ、シナジー効果を高めるプロセスについて、議論、実践、検証するサイクルを構築しているようです。ローカル社員と日本人駐在員が協働しながら実績を上げ、それを本社の日本人経営幹部に共有し、グループ全体で現地を理解する。「真の現地化」のもう一つのあり方と言えるでしょう。
※コラム内では駐在員が日本人、ローカル社員が日本人以外の場合とする
【執筆者】
竹内 健(たけうち・たけし) エグゼクティブ・コーチ(COACH A USA 取締役 CFO)
PricewaterhouseCoopers LLPにて異例の日米5都市を異動しつつ、公認会計士として日米欧の企業や経営者を20年近くサポート。その経験を通じ、ソリューションの提供だけでなく対話を通じた人や組織への投資があってはじめてクライアントのパフォーマンスが継続的に発揮されることを痛感。これまた異例の会計士からの転身をはかり現職。