身体の痛み、早く痛みを取り除くことより大切なこととは
〈コラム〉瓜阪美穂「理学療法士が教えます」 身体が痛い本当の理由 【第2回】
身体に痛みを抱えた人の多くは、とにかく一刻でも早く痛みを取り除くことに執着しがちですが、痛みはなぜ引き起こされているのかを考えることの方が重要です。
歩くたびにかかとが痛むと来院された患者さんがいました。診察を行ううちに、おそらく骨にトゲがあるのだろうことが分かりました。しかしトゲは痛みの理由であって、原因ではありません。
診察の結果、20年前に捻挫した左足首の治療が不十分であったことが判明しました。治療の途中で痛みが和らいだため治ったものと思い込んでいましたが、実は足首の捻挫によって足首の神経やバランス感覚が鈍ってしまい、グラグラするバランスの悪い歩き方を身につけてしまっていたのです。かかとのトゲの痛みは突如現れたものではなく、長年に亘りかかとに負担をかけていた証拠です。
トゲの周りの炎症を抑えることで短期的に痛みを和らげることはもちろん可能ですが、同じ歩き方を続けている限り毎日負担を新たにかけているのと同然ですね。
この場合、痛みを減少させる一方で、今まで使えていなかった体幹の機能を向上させたり、バランスのとれた姿勢や歩き方を学んだりして完治を目指すのが正解です。
痛みの強さが10の時、身体機能に不具合があるのは明らかですが、痛みの強さが0になってもまだ身体機能の障害は消えていません。ここで重要なことは身体全体を改めて診察し、怪我によって起こる痛みとは関係ないかもしれない身体の不具合を突き止めることです。この不具合によって弱っている機能を強化することで健康な身体を取り戻すことができるのです。この患者さんの場合は左骨盤の動きが良くなかった為、左足に負担をかけた立ち方になっていました。
痛みと怪我の程度が比例しないことを理解して、真の完治を目指しましょう。
(次回は5月第3週号掲載)
〈筆者プロフィル〉
瓜阪美穂(うりさか みほ) 理学療法博士、整形臨床スペシャリスト。ニューヨーク州立大学ビンガムトン校を卒業後、南カリフォルニア大学理学療法博士課程を修了。ブロードウェイミュージカルのダンサーの理学療法士としても活躍中。米国の理学療法により、自身の身体に興味をもち、正しい動作を生活に取り入れることを目的に治療や指導を行っている。
【ウェブ】https://omptny.com/ja/