礒合法律事務所「法律相談室」
エネルギードリンクと呼ばれる清涼飲料水であるレッドブル(Red Bull)を販売する会社を相手取った訴訟が10月半ばにニューヨーク州ブルックリン地区の裁判所で起こされました。以前より身体にもたらす悪影響等、色々非難されてきたレッドブルですが、レッドブルはともかく、原告の代理人である弁護士が民事訴訟を扱う他の弁護士の間で非難されています。
ブルックリンに住む33歳の建設作業員がバスケットボールの試合中にレッドブルを消費し、その後、心拍停止となり、最終的に死亡しました。裁判所へ提出された訴状では、レッドブルの販売会社を製造物責任法に基づく過失責任、不注意、警告義務の怠り、保証違反、詐欺、等の計7の法的理由を根拠に合計35億ドルの補償的損害賠償、及び50億ドルの懲罰的損害賠償を請求しています。
原告の代理人である弁護士への非難内容は提訴事実ではなく、死亡原因とレッドブルの関連性の議論でもなく、その弁護士の損害賠償額及び明記事実にあります。
ニューヨーク州では2003年以降の人身障害(personal injury)及び不法死(wrongful death)に基づく民事訴訟の訴状に具体的な損害賠償額を明記することは禁止されています。その理由は幾つかありますが、最も大きな理由として、提訴の時点では原告が最終的に受けるべき具体的な損害賠償額が不明であるという点があげられます。民事訴訟の場合、通常は法規された提訴期間が存在し、その間に提訴しない場合、提訴権利が失効するため、「とりあえず」提訴期間内に提訴を行う必要があります。原告・被害者がこの先どのような治療を必要とするか、またそれにかかる医療費、一生涯苦しむ損害の有無、種類、等の判断は難しく、提訴の時点では、具体的に請求されるべき損害賠償額の提示は多くの場合不可能です。
今回のレッドブル訴訟の原告の代理人弁護士は訴状内に35億ドルの補償的損害賠償、及び50億ドルの懲罰的損害賠償を明記しています。明記理由は2つ考えられます。1つは単純に原告の代理人が法律を知らなかった、という理由。もう一つはこのブルックリンの弁護士が自身の案件を新聞の見出しに取り上げられたかった、という事です。今回のレッドブル訴訟もしっかりと各種メディアの見出しに登場しました。インターネット上の読者のコメントには「一体なんなんだ、この損害賠償額は?」、「死人を利用して簡単に金を稼ぐ手段」等と訴訟内容の議論ではなく、訴訟を金儲けの手段と見なした非難が多く見られます。
根拠の乏しい膨大な損害賠償を訴状に明記したレッドブル訴訟の原告代理人は民事訴訟を扱う他の弁護士の印象を悪化させたと言われても仕方がありません。
(弁護士 礒合俊典)
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(次回は4月第3週号掲載)
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