娘に構ってあげられない私を救った母の助言
娘のまりが生まれたころ、私はKORINの事業を立ち上げたばかりでとても忙しい日々でした。毎日仕事ばかりです。ずっと家で一緒にいられるお母さんと比べて、私はベビーシッターに頼んでばかりで、それがものすごく心の重荷でした。
母に、もう罪悪感でどうしたらいいかわからないと電話したら、子供はあまり親に構われるのは好きじゃないのよ、と言われて拍子抜けしました。「子供も自分だけの時間が必要よ、自分だけの時間が持てれば自分の世界を作れる。あまり構いすぎるのはよくないし、そういう環境なら、そういう環境の中で自分の世界を作って行くようになるから。まりちゃんは自分なりにちゃんとやっていけるから心配しないで。大丈夫」と言われて、私はものすごく救われて、そうして自分のことを思い返しました。
私の母は保険会社の支店長をしていました。そういえば母も朝から夜遅くまで仕事で、帰ってこないこともありました。ご飯の時間に帰って来られないときは私と6歳下の弟に「何でも好きなものをてんやもので取っていいから、ごはん先に食べててね!」と言われ、私と弟は「やったー!」と言って食べていました。それを思い出して、母が忙しいのを嫌だと思ったことは一度もなかったことに気づきました。私は確かに一人遊びが好きな子供で、それは自分の時間があって、自分の世界があったからなのでした。もし親がいつも一緒で、あれをしなさい、これをしなさい、あれはだめ、気をつけて、と言われたらどうだったろう?と思います。
いつもそばで見守ってくれる人がいるという意味では良いけれども、確かにそれは必ずしも子供にとってベストではないかもしれない。少なくとも私は、お構いされなくてとても良かったから、あまり自分の娘に対して、申し訳ないとか罪悪感を持たないようにしようと思いました。私のところに生まれてきたのは娘の運命なんだ、私はこれで良いんだ、たくましく育ってもらおう、と思ったら、だいぶ気が軽くなったのでした。
(次回は9月7日号掲載)
かわの・さおり 1982年に和包丁や食器などのキッチンウエアを取り扱う光琳を設立。2006年米国レストラン関連業界に貢献することを目的に五絆(ゴハン)財団を設立。07年3月国連でNation To Nation NetworkのLeadership Awardを受賞。米国に住む日本人を代表する事業家として活躍の場を広げている。
(2019年8月24日号掲載)