妊活のとびら NY不妊治療ストリーズ 第15回
これまで“不妊”を“妊娠”へと導くためのさまざまな治療や、不妊治療をサポートする画期的な補助的医療などについてご紹介してきたが、今回は、当クリニックでめでたく妊娠されたある患者さまの、ちょっと不思議なお話をご紹介したい。
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ここ最近、「日本でも不妊治療をしていたのですが、なかなか妊娠できなくて…」と当クリニックを訪れてくださる患者さまが増えてきた。その一人、Aさん(30代前半)は日本で体外受精(IVF)を試みようと何度か採卵を行ったものの、一つも採卵できなかったと。しかも、採卵前に卵巣内をモニタリングした際には多くの卵胞(卵子を包む袋)が確認できたにもかかわらず、いざ採取すると卵子がゼロという悲しくも不思議な結果だったそう。担当医師も不思議がっていたとの言葉通り、日本から持ってこられたカルテにその原因や医師の見解などは書かれておらず、Aさんも原因不明の診断に成すすべがないという様子だった。
空胞と未成熟卵
多くの卵胞はあるのになぜ卵子が採れないのか。考えられる答えはとてもシンプルで、おそらく超音波検査で確認された多くの卵胞が空胞だったか、卵子が未成熟だったのだろう。
通常一つの卵胞に一つの卵子が入っており、体外受精の際には、卵胞に細い鍼を刺して内用液ごと全て吸引し、その中から卵子を回収する。ただ、今回のように必ずしも一つの卵胞から卵子が回収できるわけではない。卵子はきちんと成熟すると顆粒膜細胞から剥がれ、卵胞内に浮遊。その状態のものを回収するのだが、未熟で硬いままの卵子は剥がれないため、「採卵できない」という結果になる。
卵子をしっかり成熟させる
卵子を採取するためには、多くの卵胞を十分な大きさへ育てること、そしてその中にある卵子をしっかり成熟させることが基本となる。通常、生理開始から8日目あたりで卵胞は直径約10ミリ、その後一日約2ミリずつ大きくなり、14日目あたりで約22ミリとなる。約20ミリになった時点でLHサージ(黄体形成ホルモンの分泌)が起こり、これにより卵子の成熟が促進され、受精可能な状態となって排卵されるのである。
体外受精の際は、自然にLHサージが起こる前に「トリガーショット」と呼ばれるホルモン薬投与によってLHサージと同じ状態をつくり、卵子を成熟させ採卵する。生理周期はもちろん、年齢、卵巣の状態、ホルモン薬の作用具合、ストレスなどによっても個々の卵胞の発育速度は異なるため、卵胞のモニタリング、トリガーショットのタイミングや量など、医師の的確な判断とスケジューリングが採卵成功の大きな鍵となる。
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今回ご紹介したAさんは年齢が若いこと、卵巣内に多くの卵胞が確認できたこと、さらに日本人は比較的ホルモン薬の量が少ない方が卵子の質が良いという当医師の経験と見解から、少量のホルモン薬を使用。結果、なんと16個の成熟卵子を採取することができ、その後すぐに受精させた新鮮胚を移植したところ、一度の体外受精で無事妊娠に至った。着床前診断をクリアしたその他の正常な受精卵(胚)は、今後のご夫婦の未来に備えて現在凍結保存されている。
(次回は6月第2週号掲載)
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