〈コラム〉不明瞭な従業員区分が企業に及ぼす恒久的インパクト

0

ワーク・スケジュールについて(2)

「HR人事マネジメント Q&A」第2回
HRMパートナーズ社 副社長及びパートナー 上田 宗朗

前回=5月22日号掲載=に続き、今回もワーク・スケジュールとワークスタイルを取り上げます。

ワーク・スケジュールはワークスタイルと密接に関わっている、即ちこれ、「働き方」「働かせ方」問題であり、「働かせ方」の方法として前回では、1日8時間・週5日勤務から1日10時間・週4日勤務に変更するなど、とりあえず今の時期に普段と異なる就労勤務時間を設定することで「働き方」において自宅勤務を希望する従業員からも支持され易く、且つ転職を防ぐ手段ともなり得るAlternative work schedules(代替勤務スケジュール)やMake Up Time制(勤務時間補填制度)を取り上げました。

多くの企業の関心が集中する従業員の自宅勤務継続問題と、Alternative work schedulesやMake Up Time制のような手法の導入に絡み、人事管理上もっとも肝心且つ踏まえておくべきことはEmployee Exemption Status(従業員区分)です。これについてはここ米国でおよそ20年前から浮上してきており、通称「FLSA問題」とも言われています。

FLSAとはFair Labor Standards Actの略であり、所謂、公正労働基準法と呼ばれる法律ですが、これは1929年から始まった世界大恐慌をうけ、38年に、おびただしい数の失業者に職を提供するべく、●最低賃金を設定●残業手当の発生基準を設定●エグゼンプト/ノンエグゼンプトの区分を設定し、施行したとの経緯があります。つまり、企業が一人でも多くの者を雇用するよう最低賃金を設定することと合わせて1・5倍になる残業基準を設けつつ、その基準に該当する職務とそうでない職務を区分けしたわけです。単語の意味からもお分かりのように、エグゼンプト=残業代を免除される従業員、ノンエグゼンプト=残業代の対象となる従業員、です。

問題は、この区分けを謳ったFLSAの基準値が明瞭でなかった為、労使双方いずれ側もが都合の良いように解釈し得たことです。例えば「当該職務は、通常、自由な裁量と独自の判断に基づいて仕事をする」や「当該職務は、通常、重役や経営陣の手足となって働く」は、そうだともそうでないとも取れますし、また「従業員が特別なトレーニング、経験、知識を必要とするような特殊な、もしくは技術的な職務である」と問われれば、該当ポジションの価値を高めるべく当事者同士の労使双方が共に「そうだ、当該ポジションは特別な経験や知識が必要だ!」と敢えて声高に唱えてしまいがちですが、第三者から見るまでもなく冷静に顧みれば、区分けが間違っていることが多いのは周知の事実です。

このような背景ならびに企業側が残業代を支払いたくないとの経営上の永遠の理由から、実際は残業代が免除されないノンエグゼンプトなのに残業代が免除されるエグゼンプトに区分してしまうとのMisclassification問題が連綿と起こることになったのです。

ではこのMisclassification問題がただいま浮上している自宅勤務継続問題とリンクし、如何に強く露呈するに至ったかですが、これについては次号で取り上げたいと思います。

(次回は7月第4週号掲載)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

過去の一覧

Share.