〈コラム〉身上調査における「危うい無知」(3)

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人手不足(8)

「HR人事マネジメント Q&A」第20回
HRMパートナーズ社 社長 上田 宗朗

前回=11月26日号掲載=の記事では、求職者のバックグラウンドチェックを行うにせよ調査の結果から不採用にするにせよ、問題履歴の深刻度・時期・行為、これらが募集する職種に如何なる悪影響を及ぼすかの判断基準を綴った自社独自の方針を確立し、募集時に求める要件を開示しておくことが肝要であり、さもないと採用判断基準の曖昧さ非透明性ゆえ逆にそここそが企業を守る側にとっての致命的箇所となるかもしれないと述べました。

要は身上調査によって露呈した求職者の過去の問題行為をして採用予定の職種(仕事)にはどのような問題が降りかかるのか・降りかかるかもしれないかについて誰もが理解・納得し得る合理的判断基準を定めた文書を用意していなければ、「面接官の選り好みで不採用にされた」延いては「この会社には不当な判断基準が存在する」と見做されても仕方ないとなるわけです。即ち、企業側がリスク回避を目的に先手を打ったつもりが逆に作用するかもしれないということです。だからこそ採用予定の職種によって採用判断基準が異なってくるのは当たり前でむしろ判断基準が同じであることの方がおかしいとも言えるのです。但し例えば、直近の履歴に車のスピード違反記録が多数見つかった求職者がデリバリー職に応募してきた場合、あなたなら採用するでしょうか。ではその求職者が応募してきたのが経理職だったなら如何でしょう。「滅多に外出しないと言えど、冷静沈着に職務を遂げるべき経理職がそれでは困る」と思うかもしれません。だからこそ貴社なりの要件・基準を確立する必要があるのです。

まだあります。調査結果を理由に不採用とする場合においては、求職者に対して2段階の通知手順を踏む必要もあります。
Preliminary notice / pre-adverse action notice:バックグランドチェックで憂慮すべき調査結果が出たことを求職者に通知します。通知書類は調査結果報告書のコピーと共に期限内での連絡および調査結果が間違っていることもあるため反論の機会や調査会社への問い合わせ方法、求職者の権利について記載されます。
Adverse action notice:期限内に反応が無いもしくは不採用決定を覆すような説明・反論が無ければ、バックグラウンドチェックの結果を理由とした不採用の通知を行います。不採用通知には再び調査結果のコピーを同封し、Federal Credit Reporting Actや各州法によって守られている求職者の権利や異議申し立てがある場合のプロセスを記します。

これらを通知過程を経ずに不採用とした場合、企業は採用手順を怠ったとして求職者から問題視されることになります。

(次回=1月28日号掲載=に続く)

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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