〈コラム〉米国世情と日系企業人事の隔たり(9)

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人手不足(26)

「HR人事マネジメント Q&A」第38回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

毎月1回ずつ掲載する当コラムにてここ数カ月間は、犯しがちな同一賃金法に違反しない為には正式に給与制度を設けることが重要であり、設ける給与制度に従業員の職務遂行能力要素を付加するなら前提として人事考課システムを確立する必要があり、考課システムを確立するなら大前提としてジョブディスクリプションを備えることが必要である旨を繰り返しお伝えしてきました。

順序を変えて説くなら、能力向上度合いや職務達成度合いを正しく測るための「基準値」が備わっていなければ職務遂行能力を査定しようがないため、要点となる職務内容や責任範囲など評価要素を綴ったジョブディスクリプションが必要になりますし、各従業員の給与額や昇給率を「統一算定フォーミュラ(計算式)」なしに決めれば恣意的で根拠のない一貫性を欠くプロセスだと問題視されることになり、更には上司による差別行為があったのではとの疑惑を持たれることにもなりかねない為、人事考課システムが必要になるということです。

但しいくら万全に思える一連の人事制度を作ろうとも部下の能力を評価し給与額を決める立場の上司が好き嫌いやえこひいきで採点するようでは元の木阿弥…それどころか会社の立場を危うくすらしかねません。そのため一連の制度を設けたからと安堵するのではなく、査定者側つまり上司の立場にある者がそれら主観的基準を排し部下を客観的且つ真っ当に評価できるよう毎年の如くトレーニングする必要性も生じるわけです。

ところで話は変わり、インフレ率の6月の対前年比が3%と出ました。5月の3.3%と合わせて鈍化傾向が確定しつつあり、経済が少しずつパンデミック前の状態に戻っています。また転職率が減速している中、対する夏季の求人数も過去2年間で大幅に減少し、とりわけインターンシップ数すなわち新卒枠に繋がる求人数の悪化は顕著とのこと。

これは私が最前より申し上げているように、現従業員の転職熱が冷めるに連れて会社は代わりの従業員補充の募集活動を徐々に減らしてきていることから労働市場の方もまた2019年時の如き安定状態に向かっている証とも言えますが、但し依然として労働市場がひっ迫していることに変わりはないため、ここでSHRM研究員が現在の米国雇用事情について大切なことに触れています。

曰く「多くの会社は高インフレに対応するべく過去数年間に亘って従業員の給与額やベネフィット内容を大きく引き上げてきたが、このような方針を見直す(転換させる)にはまだ時期尚早である可能性が高い」、「インフレが再び上昇し始めるかどうかについても依然として不確実性が大きく、下降傾向がもう1カ月続いたとしても給与や総報酬戦略の変更を開始する時期ではないかもしれない」。

(次回は8月24日号掲載)

 

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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