〈コラム〉人余りの始まり(3)

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人手不足(29)

「HR人事マネジメント Q&A」第41回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

前回=9月28日号掲載=の記事にて「例年通りであれば夏は年末商戦を見据え製造業は増産体制となり物流も活発になり加えて小売業や外食産業も雇用を増やす時期に入ると捉えられているにもかかわらず7月の雇用増加数が直近の3カ月に比べて極端に下がったのに続き8月の雇用増加数すらも予想を下回った」と書きました。

ところがここに来て9月の新規雇用数が予想を上回る25万4000件だった報告がなされ加えて7月8月合わせた雇用数も実際は7万2000件多かったと上方修正…それでも雇用増とは言い難い…がされました。このような事象はこの時期特有の新卒者採用と重なるほかにホリデーシーズンに向けた各社の雇用増計画がようやく数値に現れ始めたものとも言えるでしょう。

尚、雇用増の内訳としてレジャーおよびホスピタリティ部門(レストラン、旅行、スポーツ関連)は年初の低迷から抜きん出て雇用が急増し景気を押し上げる好ましい要因にはなったものの、対する製造関連は直近3カ月間で9300人の雇用が失われるなど引き続き減っており、このブルーカラーワーカーの雇用減状態が消極的事実として景気の先行きを不安視させています。またパンデミックが終わったことから医療従事者の新規雇用の方も鈍化しました。

あと、民間企業の全米平均給与値でいうと、今年6月時点で時給が昨年比1・93ドル上昇、即ちここ1年で週給だと77ドル前後、年俸だと4000ドル前後上がったことになりますが、日本でも労働組合や野党の圧力もあり前首相が最低賃金を2030年代半ばまでに1500円に引き上げる目標を掲げたところ、その給与額ではとても賄いきれないと悲鳴を上げる中小企業を中心に雇用が縮小するといわれており、翻って米国の方でも或る米エコノミストが「1年以上の減速の後でも労働市場は良好で雇用者需要と労働者供給の持続可能なバランスを維持しながら幅広い雇用増加と大幅な賃金上昇をもたらしている」と広言するも、現在のように年間を通じて全体的に雇用が減速し続けている中でのこの「昇給圧力」の傾向は雇用減や景気減に働くものとして危惧されます。

ところでこの昇給圧力の背景あるいは理由は、人手不足は言わずもがな、その他にも過去に取り上げたPay Transparency ActやFLSA Salary Testが強く作用しているからだと思います。どちらの法律も前々から囁かれたものでありつつ、ここに来て日系企業の皆さんの愁眉の問題となってきたことが果たして昇給圧力と如何な因果関係にあるかは次回から述べたく予定します。

(次回は11月23日号掲載)

 

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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