人手不足(30)
「HR人事マネジメント Q&A」第42回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗
前回=10月26日号掲載=の記事にて「現在の昇給圧力には最近はじまったFLSA Salary Test やPay Transparency Actが強く作用しており、在米日系企業の間でもいよいよ愁眉の問題となってきた」と締めくくりました。
ここ数年の大退職時代と言われる動きが既に一段落したであろうことは皆さんも同じように思われた筈で、これは雇用指標調査の主軸である募集数・採用数・退職数全ての数字が下がって来た統計結果でも明らかであり、つまり人々は今の仕事を辞めて転職するリスクを取らなくなった…もちろん毎年この時期から始まるホリディーシーズン期間中は就職退職/転職活動の動きが鈍くなることを差し引いてみても…ということです。
翻って、仕事を探している人の割合は依然として高く且つ失業率も上がって来ています。これは自主退社や解雇レイオフによるものではなく、家庭事情および復学やリカレント教育の目的のほかワークライフバランスなど何らかの理由により暫くのあいだ就労していなかった人々が新たにまたは再び仕事に復帰しようと試みるも職を見つけるのに苦労していることに因るものとされています。そしてこの中にはアルバイトではない初めて正社員職を求め奔走する新卒者グループもが加わります。
働き盛りの25~44歳の壮年層に限っていえば労働参加率が就労可能人口比で83・8%(2023年時)と実に20年前レベルの83%越えにまで戻って来ました。即ち、求職者数は多いものの前述の募集数・採用数・退職数が下がっているため働く先を見つけられずにおり、それが失業率に反映されているのが実態のようです。(注:失業率は求職活動を行いながら失業保険を申請受給した人数と総雇用数との比率で測られます)
ところで本来なら仕事を探す人が増えれば買手市場となり企業側が出す給料レベルもそんなに上げなくて良い筈。事実、大手コンサルティング会社が発表する今年の市場平均昇給率は一昨年時よりも昨年時よりも下回りました。
ところがそんな労働市場に対し、FLSA Salary Test見直しやPay Transparency Actが各地で施行され始めたことから、需給関係とは別に新法や規制に沿うべく企業側は引き上げざるを得なくなった…労働者達に言わせれば生活費の上昇に追付きはしないものの漸く少しだけ給与額が引き上げられた…との背景があり、件の昇給圧力と因果関係については今回述べる予定でいたものの文字数の都合により次回に回すことに致します。
(次回は12月21日号掲載)
〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。