〈コラム〉昇給圧力(1)

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人手不足(31)

「HR人事マネジメント Q&A」第43回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗

前々回=10月26日号掲載=の記事で「昇給圧力の要因は今年に限ればFLSA Salary TestやPay Transparency Actが強く作用している」と説き、前回=11月23日号掲載=の記事にてその根拠を解説する予定が景気動向に紙面を割き過ぎたことから今号へと先延ばししました。

一つ目のFLSA Salary Testとは、FLSA(公正労働基準法)上で残業代支払い対象となるNon-exempt従業員と片や残業代支払いを免れるExempt従業員を分けるためのチェック項目のうちの一つであり、即ちExempt従業員たるに支払われるべき給与額最低値を定めた境界ラインを指します。私がこれを昇給圧力の要因に挙げた理由は今春にこの最低値を米労働省が一挙に引き上げる行為に出たからです。この計画は第1弾として今年7月と来年1月の2段階式に引き上げられるもので、既に1段階目の7月の引き上げを済ませ2段階目となる来年1月の引き上げ要求を見据え各社が再び給与調整を行おうとしていたのが今年末のまさに今なのです。(ちなみに第2弾は以後3年毎に引き上げていく予定下にありました)

ところがそこに飛び込んで来たのがテキサス州東部地区連邦地方裁判所をして米労働省のFLSA給与基準値引上げ要求そのものを無効とする11月15日の判決結果のニュースで、来年1月時はおろか今年7月時の引き上げまでも無効化するものでした。それ故あちこちの会社でただいま混乱が起きています。謂わば7月時に続いて引き上げられる筈の次の給与基準値に迄また給料が上がると見込んでいた従業員たちをして落胆せしめたからであり、対する雇用主側も「そんな予定はなかった」と今更とぼけることすら出来ずにいる為です。

この無効化のニュースは前回の11月23日号掲載のコラムを送稿した直後に発表されたことから私自身も驚かされましたが、但し過去これまでにもSalary Testの引き上げ要求は何度となく俎上に上がっており、今回無効化されたとはいえ昇給圧力の一つとして今後も強く作用していくことに変わりありません。

加えて連邦のMinimum wageの上昇を待てず引き上げを独自に行って来ている東西両海岸をはじめとする諸州では今や最低賃金額が15ドル前後にまでなり、対する連邦政府の定める7.25ドルに依然として倣っている諸州との間で給与額で二極化が起きており、連邦法であるFLSA給与基準値引上げ要求の無効化がこれに拍車をかけるかもしれません。

生活費を考慮するにせよ、この流れは先の大統領選挙で起きた国を二分化させた動きにも類しますが、来年早々から共和党トランプ政権になることでこの昇給トレンドや給与格差が少しは収まるのか、はたまたより上昇を続けるのか、如何なる方向に展開するかは暫く様子見するより他ありません。

(次回は2025年1月25日号掲載)

 

上田 宗朗

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう  富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。

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