人手不足(42)
「HR人事マネジメント Q&A」第54回
HRMパートナーズ社 人事労務管理コンサルタント
社長 上田 宗朗
前回─11月22日号掲載─の記事では、AIや自動化技術の進歩の影響もあり特に若年層の雇用が大幅に減っていること、一方で職務経験が豊富な者やAI露出度の低い職種では減少傾向が見られなかったこと、そして民間情報筋から10月の雇用は緩やかな回復を示す数値が出されたことを取り上げました。
しかしながら各報道機関からは、10月の雇用統計値最終報告として、2003年以来最多の人員削減数を記録したとのネガティブな数字が相次ぎ出されました。DOGE(政府効率化省)による大量解雇および少し前の政府機関の閉鎖、他方でプライベート企業でもマイクロソフトやインテルやメタ社をはじめとしたテック関係の連続した大型レイオフ、エネルギー関連大手のブリティッシュペトロリアム、シェブロン、エクソンモービルの人員削減、ベストバイやコールズ、スターバックスなど小売り業のコーポレート職の削減に加え、そのスターバックスは数百店舗の閉鎖も同時に行ったなどのニュースが耳目を集めたことは皆さんの記憶にも新しいところでしょう。
ところで労働力の年齢層視点で見るに、米国では55歳以上の人口が著しく増加していることを背景に、日本に同じく就労人口の高齢化が進んでいます。SHRM米国人事管理協会によると、過去30年間で若年層の就労人口増加が僅かだったのに対し、55歳から64歳および65歳以上の就労人口はほぼ倍増しており、とりわけ65歳以上の就労人口が最も急速に増加しているとのこと。この増加要因として平均寿命の延びやベビーブーム世代の高齢化、それに出生率低下による若年層の人口増鈍化を挙げています。加えて65歳以上の就労者の60%が退職せずに今後も働き続ける予定であるか、または約29%が一度はリタイアしたがその後に再就職しているとのこと。
即ち、この年齢層が今後も引続き労働市場に貢献していくであろうことは明らかであり、同協会関係者曰く「企業はますます高齢化する労働力に適応して人材確保に動くことが重要であるものの、同時に年齢による偏見や差別をなくし、スキルアップの機会を提供できるかが課題となる」「それ故、スキルのギャップを解消するべく年齢を問わない包括的な取り組みやシステム構築を行うこと、経験に裏打ちされた高齢労働者の強みを活かしつつチームのパフォーマンスを向上させること」を2本柱に来たる次代に向けてより強靭な就労体制を築く時期に来ています。
(次回は1月24日号掲載)

〈執筆者プロフィル〉うえだ・むねろう 富山県出身で拓殖大学政経学部卒。1988年に渡米後、すぐに人事業界に身を置き、99年初めより同社に在籍。これまで、米国ならびに日本の各地の商工会等で講演やセミナーを数多く行いつつ、米国中の日系企業に対しても人事・労務に絡んだ各種トレーニングの講師を務める。また各地の日系媒体にも記事を多く執筆する米国人事労務管理のエキスパート。