「永野・森田公認会計士事務所 日下武」ビジネスのツボ 第57回
いよいよ来月11月にアメリカ大統領選挙が行われます。皆様もご存知のとおり、共和党はドナルド・トランプ氏、民主党はヒラリー・クリントン氏を大統領候補として正式に決定しています。昔から大統領選挙と税制は深く結びついているといわれています。それは投票者が得になる税制改革を提示することによって、選挙戦を有利に進めていくことができるからです。それでは、2016年アメリカ大統領選挙で民主党、共和党の両党が掲げる税制改革案について比較してみることにします。
両候補ともにいろいろな税制改革を提示していますが、主に個人所得税について焦点を当ててみます。
クリントン候補はアメリカの富裕層が巧みなタックスプランニングによって節税をすることにより、時には中流所得層の実効税率を下回ることもあるので、富裕層にもっと公平な税負担を求めるために、現在の10%から39.6%の累進課税率を維持しながら、課税所得が500万ドルを超える場合には4%の付加税(Fair Share Surcharge)を追加するとしています。これに対して、トランプ候補は全体的な減税を掲げています。現在の累進課税のブラケットを0%、10%、20%そして25%の4つの累進課税制度に簡素化することを掲げています。また夫婦合算申告で所得が5万ドル(独身の場合は2万5000ドル)以下の場合は非課税とするとしています。さらに、現在は独身の場合と夫婦合算の場合で適用される税率が異なりますが、これを同率に変更して、独身の場合、不利となっている税率の差をなくすとしています。
クリントン候補は全体的に富裕層への課税強化を打ち出していますが、トランプ候補は個人、法人を問わず減税するとしています。トランプ候補のほうが、多くの人にとって税の恩恵があるように聞こえますが、果たして減収分はどうやって補うのでしょうか。トランプ候補によると減収分は主に超富裕層の個人所得税の所得控除項目の制限からの増収、アメリカ企業の海外に留保している現金や所得に対する課税などにより補填するということで財政への影響はないと主張しています。この意見に対してクリントン候補は、もしトランプ候補の減税が実行された場合、税収は10年間で12兆ドル不足すると計算し、指摘しています。
両候補には大きな政策の違いがありますが、いずれの候補が大統領になってとしても現行税制に与える影響は大きいと考えられます。
(次回は11月第2週号掲載)
〈プロフィル〉 日下 武(くさか たけし) 永野・森田公認会計士事務所NJ拠点マネージャー。大手日系食品商社での営業経験を生かし、顧客の立場になって、全体的なビジネス、会計、税務相談を受けている。メーカーからレストラン、リテーラーマで、幅広く顧客を持つ。
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