帰国生は私立中学への入学や編入学も目立つ
「在米親子にアドバイス」日米の教育事情
米日教育交流協議会(UJEEC)・代表 丹羽筆人
日本国内の中学生は9割以上が公立中学校に通学しています。帰国生も住所地の公立中学校には必ず入学できます。また、入学試験もありませんので、受験対策も必要ありません。一方で、帰国生は約3割が公立中学校ではなく国立や私立の中学校に通学しています。国立や私立の中学校では、一部の国立中学校を除き入学試験がありますので受験対策が必要となります。
では、帰国生の約3割が国立や私立の中学校を選択するのはなぜでしょうか。
公立中学校は、住所地によって、帰国生が一人もいなかったり、自分以外のほとんどの生徒が小学生からずっと一緒だったりすることがあります。元々住んでいた場所に戻るため顔見知りの生徒が多いという場合を除き、特別視されたり、同級生の輪の中に入れなかったりして、疎外感を味わうこともないわけではありません。
一方で、国立中学校や私立中学校には、帰国生を積極的に受け入れたり、英語教育や国際交流に力を入れていたりする学校もあります。さらに、高校や大学への進学指導を熱心に行う学校もあります。中高一貫校の場合は、高校受験をする必要がありません。また、大学付属校や系列校の場合には、大学受験もしなくてよいということもあります。このように帰国生の保護者にとっては、国立中学校や私立中学校の方が、お子さんにとって良い教育環境があると考えるためでしょう。
ただし、国立や私立中学校では、先述したように入学試験がありますし、そのハードルが高い場合もあります。また、入学したものの、他の生徒のレベルが高く、授業についていけないというケースもないことはありません。また、自宅からの距離が長かったり、電車やバスの乗り換えが多かったりして、通学の負担が大きいことも考えられます。また、共学ではなく学校生活が楽しくないとか、校風が合わないというようなこともないわけではありません。学校のことを十分に調べた上で、学校の選択をすることをお勧めします。
次に、中学受験について説明します。
中学受験は、国語と算数の2教科という学校が主流ですが、難関校では、社会と理科を加えた4教科を課す学校もあります。また、教科書での履修範囲を超える問題やその場での思考力や表現力を問うようなオリジナリティーあふれる問題を課す学校もありますので、受験校の出題傾向に則した受験対策が必要です。このため、国内生は小学校4年生から受験対策を始める傾向もあり、帰国生の中にも、お父様の帰任を待たずして帰国して、日本で受験対策をする動きも目立ちます。帰国後2~3年以内であれば、帰国生入試が受験できるという学校もありますし、早期に帰国すれば、国内生と同じ土俵で戦えると考える保護者もおられるからです。
一方で、英語を課す学校も年々増加しています。帰国生入試では、以前から英語を課す学校があったのですが、2020年度から小学校5・6年生で英語が必修科目となることから、国内生対象の入試でも英語を課す動きが目立っています。また、英語力があれば、英語の受験を免除したり、特別入試や推薦入試の受験資格を与えたりする学校もあります。英語力は、英検で言えば2級合格以上を求める学校が目立ちます。中には、TOEFLのスコアの提出を求める学校もあります。このように英語力は受験においてアドバンテージになりますが、英語ができるだけでは入学はできません。日本語での教科学力をしっかり身につけることが大切です。
また、中学受験では、保護者同伴や受験生とは別に保護者のみの面接を課す学校もあります。中学生の指導には、保護者の関わりも大きいので、保護者の教育方針が学校の校風や方針と合っているかどうかを確認するのが目的です。
最後に、中学校への編入は先述した通り、公立中学校であれば、住所地の学校にいつでも必ず入れます。国立や私立中学校の場合は、各校によって受け入れ態勢がさまざまですが、定員に空きがある場合のみの受け入れる学校が目立ちます。編入時期も4月、9月、1月など特定月のみという学校も多いです。帰国日から編入日まで間がある場合には、一時的に公立中学校に編入しなければならないこともあります。義務教育期間は、必ずどこかの中学校に所属しなければならないからです。
編入の有無や時期、選考方法などは、編入を希望する学校に直接問い合わせてください。なお、編入試験は、国語、数学、英語の3教科という学校が主流で、中には、社会、理科を加えた5教科を課したり、小論文や作文を課したりする学校もあります。英語力は英検準1級に合格しているとアドバンテージとなります。面接は、ほとんどの学校で実施されます。
国立や私立中学校への入学や編入はもちろんですが、公立中学校への入学や編入を予定している場合でも、お子さんが入った学校に馴染み、楽しく有意義な学校生活を送るために、お子さんや保護者が積極的に学校情報を収集することが大切です。その際、学校のウェブサイトやパンフレットのみでなく、実際に入学した方の情報もキャッチしましょう。ただし、その方の主観が入りますので、一時帰国の際に学校訪問することをお勧めします。学校側が許せば、体験入学をさせていただけるとより良いでしょう。また、Eメールや電話などで学校側とコンタクトを取ることも大切です。学校の特長や入学試験などについて、より具体的な情報収集ができるだけでなく、学校の受け入れに対する姿勢を感じることもできるからです。
(写真:名古屋国際中学校・高等学校)
【執筆者】にわ・ふでひと 河合塾在職後に渡米し、北米の補習校・学習塾講師を歴任。現在は、「米日教育交流協議会(UJEEC)」の代表として、「サマー・キャンプ in ぎふ」の企画・運営、河合塾海外帰国生コース、名古屋国際中学校・高等学校、名古屋商科大学の北米担当などを務める。他にデトロイト補習授業校講師(教務主任兼進路指導担当)
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