帰国生が私立中学校や国立中学校を選択する理由は?
「在米親子にアドバイス」日米の教育事情
米日教育交流協議会(UJEEC)・代表 丹羽筆人
文部科学省「令和3年度学校基本調査」によると、海外勤務者等の生徒で引き続き1年を超える期間海外に在留し、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの間に帰国し、中学校に在籍した生徒は2,529人でした。その内、公立中学校の在籍生徒は約70%の1,772人、国立中学校の在籍生徒は約4%の100人、私立中学校の在籍生徒は約26%の657人です。全体の在籍生徒は公立中学校が約93%と圧倒的に多く、国立・私立中学校の在籍生徒数は少数ですが、帰国生の家庭は国立・私立中学校を選択する傾向があることが分かります。また、全生徒に占める帰国生の比率は、国立中学校が約13%、私立中学校が約9%と10人に1人が帰国生ということになります。
このように帰国生の家庭に国立・私立中学校を選択する傾向があるのには、いくつかの理由が考えられます。
1)多くの帰国生を受け入れていること。
2)中高一貫校または系列高校があり、高校受験をしなくてもよいこと。
3)英語教育に力を入れている学校が多いこと。
4)難関大学や医学部など難関学部、海外の大学への進学者が多いこと。
5)その学校の校風や教育方針に賛同した家庭の子どもと学べること。
6)入学試験があるため、同等の学力の子どもと学べること。
7)施設や設備が充実していること。
上記の他、帰国生の家庭の中には公立中学校を敬遠する家庭もあるためという理由も考えられます。公立中学校は自宅の近辺の学校に通学できますが、一部の自治体を除き、学校を選ぶことはできません。地域によっては帰国生が全くいないということや、転出入の動きが少なく小学生の時から長年同じ顔触れということもあります。以前に暮らしたことのある地域であり知っている子どものいる場合でない限り、帰国生は異質な存在と思われてしまうということもあるようです。一方、公立中学校の教育内容は学校によって大きく変わりませんが、学校によっては厳しい指導が行われ、自由な教育方針の現地校とのギャップを感じ、つらい思いをしたということも耳にします。初めて暮らす地域の公立中学校に入学・編入学する場合には、その学校の様子を事前に調べることをお勧めします。公立中学に入学・編入学後に、私立中学校に編入する帰国生は少なくありません。
国立中学校に在籍している帰国生は人数的には決して多くはありませんが、先述したように全生徒数に占める帰国生の比率は約13%と多いです。公立中学校と同様に授業料は無料ですので、私立中学校に比べ学費が安く、また帰国生へのサポートも充実している学校も目立ちます。
お茶の水女子大学付属中学校、愛知教育大附属名古屋中学校、京都教育大学附属桃山中学校(1・2年)には、帰国子女教育学級が設置されています。
普通学級での混合受け入れ方式ですが、埼玉大学教育学部附属中学校、千葉大学教育学部附属中学校、東京学芸大学附属国際中等教育学校、横浜国立大学教育人間科学部附属中学校、横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校、静岡大学教育学部附属島田中学校、京都教育大学附属桃山中学校(3年)、大阪教育大学付属池田中学校、神戸大学附属中等教育学校は、帰国生を受け入れています。また、さいたま市立大宮国際中等教育学校、東京都立立川国際中等教育学校、兵庫県立芦屋国際中等教育学校は、帰国生を受け入れている公立の中等教育学校です。
なお、国公立中学校では系列高校、国公立中等教育学校では系列大学に進学するために入学試験の受験が必要になることも多いので、ご注意ください。
(写真提供:名古屋国際中学校・高等学校、国際高等学校)
【執筆者】にわ・ふでひと 河合塾在職後に渡米し、北米の補習校教員・学習塾講師を歴任。「米日教育交流協議会(UJEEC)」を設立し、「サマー・キャンプ in ぎふ」の企画・運営、河合塾海外帰国生コース北米事務所、名古屋国際中学校・高等学校、国際高等学校、名古屋商科大学北米担当、サンディエゴ補習授業校指導教諭を務める。
◆米日教育交流協議会(UJEEC)
Website:www.ujeec.org