礒合法律事務所「法律相談室」
最近では個人の経験に基づき特定のレストランや販売業者などをインターネット上で評価するオンラインレビューサイトが充実しています。実在する人による真っ当な評価もあれば、怪しい不特定多数のレビューも見られます。消費者の様々な決断に役立つレビューサイトですが、不条理に根拠も無い「残虐的」なレビューを残された方への痛手は計りしれません。実際匿名・偽名を駆使したビジネス競合への悪質なレビューの投稿等も問題視されており、オンラインレビューに基づく訴訟も多く起きています。
オンラインレビューに基づく訴訟の場合、通常は名誉毀損(defamation)が訴訟理由の一つとして挙げられます。ニューヨーク州の場合、名誉毀損を理由に損害賠償を求める場合、原告は「被告が原告に関する間違った事実表現を行い、その結果原告へ損害が発生した」という一般証明義務があります。この「間違った事実表現」ですが、ニューヨーク州では「表現」されるものが「事実(facts)」でなく、「個人的意見(pure opinion)」である場合、原告は名誉毀損を理由に被告に損害賠償を求めることはできません。つまり訴訟理由としては不十分になります。理由としては「個人的意見」は憲法により守られた表現の自由の保障の対象となるからです。個人的意見の表現か特定事実の表現か否かの判断過程においては、表現された情報・内容の明瞭さ、曖昧さ、表現内容が事実かただの個人意見であるかの客観的判断の可能性、表現内容の文脈、及び表現発生を取り巻く環境、当事者の関係等が考慮されます。
特定の表現が事実の表現か個人的意見であるか否かの判断はケースバイケースで行われますが、過去の様々な判例を考慮すると、現時点ではレビューを残す側の方が残される側よりも法の恩恵を受ける傾向にあり、実際雑誌への編集者への手紙、意見書、様々な意見を交換できるオンラインの公開討論サイトへの投稿、オンラインのチャットルームで投稿、交換された情報等は個人的意見と見なされ、よって名誉毀損の根拠にはならない、と判断される可能性が非常に高いです。ただし最近の判例の一つに、被告であるオンラインレビューサイト投稿者(原告の過去の雇用者)が原告による匿名での被告の会社への批判に対し「この投稿は解雇を逆恨みしている人物によるものである。雇用前は3カ月間ホームレスであった。この人物は雇用は言うまでも無く住居まで会社から与えられ、自身の様々な依存症の治療のための時間までも与えられた」等の「やり返し」投稿を行いました。原告からの名誉毀損事項の弁明における「匿名での投稿で、原告のことだとは明記していない上に、オンラインでの投稿により提示情報は事実ではなく、ただの個人的意見の表現である、よって原告には損害賠償を要求する権利はない」という被告の主張に対し、裁判所は匿名での投稿ではあるが、原告であることが客観的に十分示唆され、また投稿された内容はただの個人的意見のレベルを超えている、との見解を示し、原告の名誉毀損訴訟の続行を認めています。
(弁護士 礒合俊典)
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(次回は9月第3週号掲載)
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