下げ止まらぬ原油価格 日銀とアベノミクスへの追い風となるか
ここ数カ月の間に急激な円安、大幅な原油下落、世界的株安とマーケットのニュースに事欠きません。特に原油の下落は目を見張るものがあります。もし、今年の7月中旬に行使価格70ドルの2015年1月限原油(CL)プットオプションを買っていたら現在14万%以上の利益が出ているという話もあります。原油価格はこの半年間で50%近く落ちましたが、マーケット関係者はまだまだ下落基調は続くと予想しています。
では、このまま原油価格がこの低水準にとどまると今後どうなるかというと、まず原油と天然ガス輸出に大きく頼っているロシア経済に大打撃を与え、ソ連崩壊以来の長く厳しい冬が訪れる可能性が高いのです。実際、既にロシア経済は大きな悲鳴を上げています。ウクライナ紛争が原因のEUと米国による経済制裁に加え、ロシアルーブルはここ数カ月で35%以上その価値を減らしており、更にここに来て原油価格急落はロシアとプーチン大統領に三重苦を与えています。そして、ロシアの受難が長く続くとロシア相手に投資と貿易を行っているフランスやドイツなどの一部EU加盟国もまたその悪影響を受けるでしょう。そのため、既にフランスのオランド大統領は経済制裁を解くことも提案しています。
さて、原油価格急落により苦しむ国もあれば、逆にその恩恵を受ける国もあります。日本と米国はロシアとは対照的にそのメリットを最大限享受する立場にあります。近年のシェールガス革命により、米国も一部でネガティブニュースになりますが、米国のGDPは消費の割合が大部分であるため、原油価格下落に伴いガソリン価格が下がれば減税に似た効果があり、その分消費が増える勘定となります。そのおかげで得られる経済効果は非常に大きく、利上げを控える今後の米国経済にとってまさに吉兆と言えましょう。
日本もまた、福島原発事故以降、エネルギー政策を180度転換し、LNG(液化天然ガス)輸入が2010年に比べ、20%以上増え、貿易収支は2011年以降ずっと赤字となっている状況下では、原油価格下落はまさに棚から牡丹餅ならぬ予想外のプラス材料でしょう。特に消費税増税後に景気が想定以上に悪化し、顕著な効果を上げていないアベノミクスと日銀の金融緩和政策に疑問が投げられている現在、原油下落による経済刺激は安倍首相と黒田総裁にとって強力な味方となるでしょう。
(在NYエコノミスト チングーン・ボロルマー=写真、l.cbolormaa@gmail.com) (次回は12月第2週号掲載)
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