礒合法律事務所「法律相談室」
2014年の7月に長崎県佐世保市で15歳の高校1年生の女子生徒が友人を工具で殴り、首を絞め窒息死させた後、頭部と手首を切断するという悲惨な事件が起きました。加害者の年齢、珍しい生活環境、加害行為の残虐さ、自他共に認識されていた以前からの殺人願望、などもあり、加害者の家庭環境も当然注目を浴びました。事件発生後に加害者の父親はいずれ何らかの形で社会に復帰する娘を残し自殺しました。
日本では未成年者は言うまでもなく、すでに十分「成熟」した子供の犯罪行為への社会的・道徳的責任を一方的に保護者に押し付ける傾向があります。子育に関わった経験が無いにも関わらず寝起きの顔でメディアに登場し勝手に「子育ての基本」、「親と子の本来あるべき姿」等を偉そうに語る「文化人」、「コメンテーター」と呼ばれる人々もいます。
ニューヨーク州では未成年者(minor)の犯罪行為に起因する第三者への「人身」損害への直接的な賠償責任は保護者にはありません。それゆえ自身の15歳の子供が学校に拳銃を持ち込み同級生を射殺した場合、加害者の保護者へは被害者の不法致死(wrongful death)等への損害賠償責任は自動的には発生しません。ただし例外はあります。犯罪に使用された凶器を保護者が与えた場合、もしくは直接は与えてはいないが、未成年者によるその危険物保持の知識が保護者にあり、その危険物の使用を管理・規制できる状況にあった場合です。この場合、自身の子供による危険物を使用した不法行為を第三者から守るという一般義務の不履行、つまり過失があった、と見なされ、結果的に保護者には人身損害賠償責任を問われる可能性があります。未成年者が拳銃等の危険物を入手する方法は様々ですが、親が「人殺しをしてこい」と拳銃を子供に渡す場合は、ばかな親の過失が見受けられますが、仮に子供が自身の部屋に拳銃を隠しもっており、保護者にその知識が無い場合でも、その危険物の存在が通常の合理的な範囲での保護者による子供部屋へのアクセスにより発見されたであろうと見なされた場合、親には過失があったと見なされる可能性もあります。保護者が損害賠償責任を問われるもう一つの例外は保護者に未成年者の危険な性質の知識があった場合です。自身の子供の危険な性質を認知していたにも関わらず、第三者へ危害を与える事を合理的な範囲で阻止しなかった、という理由で過失があったと見なされる事があります。重要点である子供の「危険」な性質の知識の有無はケースバイケースで判断されますが、ニューヨーク州では通常は漠然とした「うちの子は気性が激しく暴力的」という一般的な性質の知識の有無は十分ではなく、具体的に「○○を行う危険性がある」という具体的知識の有無の証明が必要です。このため過去にナイフで第三者を殺傷した未成年者が今度は拳銃で第三者を殺害した場合、保護者へ人身損害賠償責任を問う者は、加害者の親は「過去のナイフによる殺傷の事例により、今回の(拳銃による)事件を起こす可能性があることは分かっていたはずである」ではなく、具体的に保護者の「拳銃の使用による加害行為発生の可能性の知識があった」と主張する必要があります。
(弁護士 礒合俊典)
◇ ◇ ◇
(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は3月第3週号掲載)
〈情報〉礒合法律事務所 160 Broadway, Suite 500 New York, NY 10038
Tel:212-991-8356 E-mail:info@isoailaw.com