礒合法律事務所「法律相談室」
託児所等の機関へ子供を預ける親にとって、学校からの昼間の突然の電話は基本的に心地がいいものではありません。電話の理由は様々ですが、「体調が優れない」「変な湿疹がある」「熱が高い」等の報告はまだしも、「怪我をした」という知らせの場合、瞬時に「いつ」「何が起こった」「どれだけ深刻か」という直感的な質問と同時に「その時学校側は何をしていたのか」という学校機能への疑問を抱きます。怪我の原因が別の生徒による正当な理由のない一方的な加害である場合、加害者が子供と分かっていても殺意や落胆が交じった複雑な心境を持ってしまいます。
ニューヨーク州ニューヨーク市では私立、公立に関係なく、学校機関は生徒を十分に監視(adequate supervision)する義務があります。十分な監視の欠如に派生する合理的に予想できるであろう事態により損害が発生した場合、学校側には損害賠償責任が発生します。怪我発生時に、その生徒が「学校敷地内にいた」「学内活動中だった」という理由のみでは学校側には損害賠償責任は発生しません。「監視が十分であったか」又「監視が不十分な場合、それが損害の原因であるか」はケースバイケースで判断されます。
怪我による損害が被害者一人の行為に基づくものではなく、他生徒による加害に基づく場合、学校側へ損害賠償責任を追求するためには、「学校はその加害者の生徒が別の生徒を攻撃するであろう事が予知できた、つまりその生徒の性質に関する具体的な知識や通知があった」という事実の立証が必要です。「前科」の無いおとなしい生徒が突如、発狂し、他生徒に危害を加えた場合、通常は学校側へは賠償責任は発生しません。このため加害者である生徒の凶暴性に関する学校側の直接的又は間接的な知識の立証がキーとなります。
学校は被害者の親へ加害者の名前を公開しない場合が多いですが、噂はすぐに広がります。子供もべらべら喋ります。「今日学校で○○君が○○ちゃんを滑り台の上から突き落としていっぱい人と車が来た」等の情報を提供してくれます。加害者の生徒の名前を聞いた時「またあの子? あの子、弟も似たような感じゃなかった?」という場合も多々あります。しかし脳の発達と共に、子供は喋りの中に適当なうそも放り込んできます。このため子供からの情報内容の正確性を他生徒の親や目撃者と確認し、学校側へ特定生徒の性質を書面にて提示し、監視の強化を求める事が将来的な悲劇を避ける上で役立つかもしれません。
(弁護士 礒合俊典)
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(次回は4月第3週号掲載)
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