心は形をつくり、形は心を勧める
東京のとある禅堂の門前に掲げられていた「禅語」が今でも心深にあります。整体施術をする者として、益々この意味が理解できるようになりました。最近、身につまされた経験がありました。
75歳を越えた日本人女性のHさん、最近日本への本帰国を決め、ご本人はその前に完全に治したいとの希望でした。しかし筆者は治療をする事はあえてお断わりしました。理由は、帰国まで10日間では双方が納得がいく施術はできないから。更には、(1)本人がご高齢であり、(2)骨粗鬆症もあり、施術には細心の注意と時間が必要でした。が、(3)それ以上に、Hさんの人生観に疑問を感じたからです。
Hさんの言い分は全てが他人の責任、a)医者に行きレントゲンを撮られたが、何も悪いところはないと言われたが、まだ痛む、b)更に紹介されたフィジカルセラピストに足を引っ張られて痛み出した、c)その後、当院に来てこれを直すのがお前の「責任」であるとのことでした。このような利己的人生が、痛みの原因であることを自覚できずにいたようでした。
Hさんはあちこち通院した後、まだ腰が痛むので最後に当院に来院。診ると骨盤転位はかなりの重症でした。骨盤全体が左倒、左右の高さが3センチ以上ズレ、右前方に捻転している状態でした。更に股関節の亜脱臼があり、歩行が困難な状態でした。
筆者から診れば、坐骨神経痛の原因は長期にわたり「ご自身が作った骨盤転位と捻転」であり、仕事上の無理な姿勢やストレスの蓄積は、体の土台(骨盤)をズラし腰椎の転位を生じたのは当然でした。ふつうであれば痛みの原因である骨盤転位を整復整骨すれば良い、容易な施術です。しかしHさんの場合は、高齢、骨粗鬆症があり、一歩間違えば骨折という危険な施術であり、その上すぐに他人の責任に転嫁するという、施術者に取り大きなリスクがありました。相当に注意を払いながらの3回の施術で、かなりの痛みが無くなりました。が、自己中心(他人不信の性格)で依然として生活環境を変えようとしないHさんに自己回復力が出るはずがなく、数カ月すると当然にズレが戻ってしまいました。再び病院、フィジカルセラピスト、ハリ等と色々な治療院を巡り、当院に戻ってこられましたが、今回はお断りいたしました。
重症患者に共通する特徴は、体全体の筋肉靭帯が硬直、体の歪み/ねじれです。毎日の生き方や姿勢で、筋力の片方が長期に硬直して骨を引っ張ってしまい、体が捩れています。「心は形をつくり」で、身体の状態は、心の映しであり、自分の心を真直に健康にして、自分以外の人や物に感謝をして、心をして身体を柔らかく暮らすことこそが最大の病気予防です。他人に責任を課し怒りの対象を探し、自己中心的で硬化した心が、硬直した体を作り腰痛などの原因になります。(1)心と体は切り離せないこと(2)痛みは心身のズレの現れで、それを知り自分の生活習慣を変えることが大切(3)痛みは心の状態の現れである―と筆者は考えます。
導院の整体は、ただ骨格のズレを直すだけでなく、(1)根本から身体の歪みを治し(2)その過程で痛みが消失(3)更に人生に対する心の持ち方を変える―という結果を導き出します。なぜならば、「形を心を勧める」からです。(次回は5月第1週号掲載)
〈プロフィル〉鈴木規正(すずき のりまさ) 指圧・整体師。「導院整体センター」院長。日本指圧医会/桜医会会員。米国で17年以上にわたって整体指圧を行い、慢性痛(腰痛、肩凝り、膝足痛)などの治療にあたり、また整体治療を通して心身の健康回復をサポートする。自身が開講する指圧教室では450人以上の生徒を育成。
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