~遺伝子疾患の着床前診断方法:単一遺伝子疾患(シングル遺伝子疾患:Single Gene Disorders)の着床前診断(5)~
胚盤胞における生体検査を行うことが最近の主流
今回も、家系から派生する特定の遺伝疾患を検査するシングル遺伝子検査の着床前診断のためにの各患者様の特有のプローブ(型)作りのセットアップが完了したあとの、着床前診断の方法について説明を継続いたします。
各患者様の特有のプローブ(型)作りのセットアップが完了し、関連しているマーカーがわかればシングル遺伝子検査の着床前診断が可能ですが、最近の臨床現場では、次第に、胚盤胞における生体検査を行うことが、主な方法論へと変わってきています。
胚盤胞における生体検査とは5日から6日目の受精卵に対して行うことを指します。胚盤胞に成長した受精卵は、2つの細胞部分によって成り立っています。一つは、内部細胞塊(ないぶさいぼうかい、inner cell mass:ICM)であり、胚盤胞の内側に形成される細胞です。これは次第に胎児の組織に成長するものです。そして胚盤胞の外側にある細胞が栄養外胚葉(trophectoderm)層で、胎盤と胚外部の組織となるものです。胚盤胞による生体検査は少量の外側にある栄養外胚葉(trophectoderm)細胞を検査のために取り除きます。このステージの受精卵は、成長(分割)が進んでいる為、生体検査の実施をすることは、以前の6〜8分割の状態と比較してより適した状態にあり、より正確性が上がります。しかし、検査結果が出るまでに時間がかかるため、生体検査後、冷凍を余儀なくされます。生検により採取された細胞は、当該患者の家系から派生する特定の遺伝疾患のシングル遺伝子検査用のプローブ(型)と照合されます。
照合分析の技術としてはPCR(polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)が使用されます。PCRは少量のDNA使用のみで早く正確な結果を得ることができるからです。
分析の結果、疾患に罹患していない受精卵は解凍され、後のサイクルで移植となります。
30回に及び、臨床・治療見地から着床前診断について徹底的に説明してきました。次回からは、着床前診断に関するよくある一般的な疑問について解説をしたい、と思います。
(次回は6月第1週号掲載)
〈プロフィル〉清水直子(しみず なおこ) 学習院大学法学部卒業、コロンビア大学で数学を学び、ニューヨーク大学スターンスクールオブビジネスでMBAを取得。マウントサイナイ医科大学短期医学スクール修了。メリルリンチの株式部で活躍し、2003年さくらライフセイブ・アソシエイツを設立。
【ウェブ】www.sakuralifesave.com/