対話の力(20)〝会話の場(環境)をつくる〟
こんにちは。COACH Aの竹内です。この連載を始めさせていただいてから、20回目を迎えることができました。ご愛読いただいている皆様に、深く御礼申し上げます。
今月は、職場に「会話の場」をつくることについて、お話したいと思います。
ある日系ベンチャー企業の米国法人トップであるAさんは、日本の大企業での経験と実績を買われ、1年前に請われて転職し、この4月から米国法人を任されることになりました。意気揚々と着任したまではよかったのですが、まもなく現地スタッフが思うように動いてくれず、思い悩む状況に陥ってしまいました。
着任と同時にコーチングを受け始めていたAさんは、担当コーチがリサーチした現地スタッフの声をまとめたレポートを読み、驚きました。
「タスクばかりの一方的な指示で、こちらから意見を言える雰囲気も機会もない」「ドアを閉じた自室で、コンピューターに黙々と向かっているばかりで、話しかけづらい」
Aさんにとっては、予想もしていなかったコメントばかりでした。これまでの大きな成功体験から、新天地アメリカでも同じやり方で成果をあげられるものと信じていたからです。
ショックを受けつつも、自分自身を変えないことには、業績どころかスタッフが辞めてしまうかもしれないと感じたAさんは、自らの部屋のドアを常に開けっ放しにし、スタッフが気軽に入ってこられやすいようにしました。また、スタッフひとり一人と、議題を決めずにお互いに自由に話すための機会を作りました。
さらに、Aさんが行った一番重要な行動は、「私は、みんなひとり一人のことをもっとよく知りたいので、ぜひいろいろ教えてもらいたい」と、宣言したことでした。Aさんは積極的に、「調子はどう?」「何か助けられることはある?」と声をかけるようにしたと同時に、スタッフからも徐々に話しかけてもらえるようになりました。
Aさんが実践したことは、一見どれも難しいことではないように見えます。しかし、スタッフの声に気づき、意識を変え、自らの行動を変えていくというのは、思ったより勇気がいることです。変わることが必要だとわかっていながらも、多くのリーダーが行動に移せないまま悶々としてしまうことも少なくありません。
Aさんは、この新しい環境で、「なんとしても自分のビジョンをアメリカで実現させたい」というゴールを再認識し、そのためにも「トップとして真のリーダーになりたい」との強い気持ちで、その葛藤を克服することができました。
皆さんは、どのように「会話の場」を作り出していますか? 職場全体に「場」を広げるために、ぜひいろいろと試してみてはいかがでしょうか。(次回は7月第4週号掲載)
〈プロフィル〉竹内 健(たけうち たけし)
エグゼクティブ・コーチ(COACH A USA 取締役 CFO)
PricewaterhouseCoopers LLPにて異例の日米5都市を異動しつつ、公認会計士として日米欧の企業や経営者へのサポートを行う中で、ソリューションの提供だけでなく対話を通じた人への投資があってはじめてクライアントのパフォーマンスが発揮されることを痛感し、これまた異例の会計士からの転身をはかり現職。
【ウェブ】www.coacha.com/usa/