〈コラム〉Yellowstone Injunction

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礒合法律事務所「法律相談室」

今年の6月にメリーランド州のとある夫婦が家を購入した後にヘビが蔓延っている事を発見し、その事実を事前に開示しなかったことを理由として前所有者や物件仲介者等を相手取った損害賠償請求訴訟を提起しました。その後その訴訟がどうなったかは分かりかねますが、ニューヨーク州では物件売却者(所有者)及びその代理人(物件仲介者)(以下、集合的に「所有者」又は「前所有者」)には物件の過去や現在の状態に関する情報開示の義務はありません。このため仮に過去に大きな水漏れや違法増築等がある場合でも、その事を購入予定者に訊かれた際には所有者には「無言」での対応が法的に許されています。ニューヨーク州では所有者による情報開示よりも購入予定者による購入前の物件調査の遂行義務(due diligence)に重きを置くため、後々発見された欠陥が購入前の合理的な調査により事前に発見できたであろうものであれば、所有者の知識や情報開示に関係なく購入者に非がある、と通常は見なされます。
この通常は存在しない所有者の情報開示義務ですが、例外として、所有者による特定の欠陥への法的に十分な隠蔽行為(active concealment)が見られた場合、所有者にはその欠陥を購入者へ通知する義務があります。隠蔽行為に伴う欠陥の通知を怠った場合、購入者には物件購入後であっても詐欺等に基づき前所有者に損害賠償請求訴訟を提起する事が可能です。隠蔽行為の例としてはネズミが蔓延する屋根裏へのアクセスの拒否、ネズミの存在を隠すための物件案内直前の大掛かりな除去作業、などが挙げられます。
ニューヨーク州では単・二世帯住宅の所有者には通常は”Property Condition Disclosure Statement”と呼ばれる物件の現状及び過去の状態の詳細を記した物件状況確認書を購入者へ提示する義務があります。通常は特定の金額を購入者へ支払うことにより、所有者はこの告知書の提示を回避することができますが、仮に通知書を提示する場合、告知書の中にて「過去に水漏れは存在しない」等と主張し、後に過去の水漏れが判明した場合、この「嘘」は所有者の隠蔽行為及を証明する要因の一つとなります。
(弁護士 礒合俊典)
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(お断り)本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は9月第3週号掲載)

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