“スーツ”について その8
スーツの上着と前身頃のボタンについて話を重ねておりますが、もう少しお話してまいりましょう。
今、日本において紳士服はかなりピッタリした、小さめのフィットの服が多くなっており、米国においてもそのような傾向が強くなってきておりますね。時に、とてもではないが、上着のボタンを掛けられそうもない窮屈そうな方を見掛けることさえあります。もし上着のフロントボタンを掛けなくてはならない場合、その方たちはいかがされるのでしょうか? 無理やり留められるのでしょうか? 特に心配なのは、日本の就活の学生さんたちなんです。企業での面接において、ほとんどの方が上着のボタンを掛けたまま着席しておりますね。コレ、実は間違いなんです。紳士服の上着は立って掛け、座って外すのが正しいマナーなのです。日本企業の人事担当者でこのことを知らない方は多いようですし、さらには政府閣議の前、テレビニュースを見る限り、政治家諸氏の多くも分かってはいない。むしろ逆に立って外して座って掛けている人が多い(苦笑)。これでは上着のボタンにストレスが掛かりっ放しで、かえって服の方がたまったものではありません(苦笑)。ボタンが取れやすくなるのもむべなるかな…。
自由民主党の重鎮の一人、福田康夫氏が首相在任中に、中国の当時の国家主席である胡錦濤氏が来日されました。その際、首相官邸から、首相がなじみにしている中華料理店に胡主席を専用車で案内する場面がありました。私が驚いたのは、胡主席が車の後部座席に乗り込みながら左手のみでサッと上着の前身頃のボタンを外されたことなのです。胡主席は国家主席とはいえ、さすがお坊っちゃま育ち、紳士服の基本的な動作を身に付けておられるんですね。まだまだ私たちは紳士服の基本について知識を深めていかなくてはいけないと思うのです。これでも妙な日本流を通されますか? それではまた。
(次回は5月14日号掲載)
〈プロフィル〉 ケン青木(けん・あおき) ニューヨークに21年在住。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服をベースにしたコンサルティングを行っている。日本にも年4回出張。