ドレスコードの話 part 3
フォーマルウエアには2種類のシチュエーションがありますね。シリアスなセレモニーの場で着用するため、もう一つ、パーティーなどソーシャルな場でのパーソナルなおしゃれ着として着用する場合で、年々後者のケースが増えていることは否定できない事実ですね。セレモニーの場では、個性よりも、その場に立ち会うことをリクエストされた公人としての立場がより重要となります。ドレスコードがより厳しく適用されるのは当然ながらこちらですね。
華やかなソーシャルなパーティーの場では、よりクリエーティブな着こなしがOKとはなります。でも不思議なことに、個性的に装おうと試みる際、ドレスコードの基本を身に付けられた方が、そうではない方よりも、より個性的に装えるものなんです。フォーマルウエアに限らず、ドレスコードにとらわれず個性的に装いたいと思われている方が多いようですが、ならばなおのこと、ドレスコードをきちんと知っておいてほしいと思うのです。“崩す”ことは、より場慣れ、コナれて見え、“COOL”なのでしょうが、それも基本的ルールを身に付けていればこそ可能となるものです。無手勝流は、その場の雰囲気を壊しかねない危険性さえもはらんでいることがあります。前にも書きましたが、フォーマルウエアとは相手に対する“思いやり”をまとうものなのです。一例を挙げれば、えんび服やタキシード(ディナージャケット)に合わせる正式の靴にオペラパンプスという、甲にリボンが付いた男性向けには見えない華奢(きゃしゃ)な靴があります。黒革製でエナメル(当地ではpatent leather)仕上げでピカピカなんです。なぜ華奢な作りかと言えば屋内のみ、じゅうたんの上を歩くことしか考えていない、いわば踵(かかと)付きスリッパなんですね。昔はパーティーで明るい色のロングドレスを着たレディーと踊ることもしばしば。エナメルの靴はピカピカで夜にふさわしく、もう一つ、靴墨を付けて磨く必要がないんです。つまり女性のドレスの裾に靴墨がこすれて付いて汚してしまうことがないのですね!!! それではまた。
(次回は11月第2週号掲載)
〈プロフィル〉 ケン青木(けん・あおき) ニューヨークに21年在住。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服をベースにしたコンサルティングを行っている。日本にも年4回出張。