〈コラム〉雇用者の代位責任 ~Vicarious Liability~

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礒合法律事務所「法律相談室」

ニューヨーク州では判例法に基づき通常、本人(principal)は雇用中の代理人(agent)がなした特定の行為(過失等)により第三者に与えた損害について責任を負う雇用者責任法(respondeat superior)が存在します。この雇用者責任法は雇用者と従業員の関係にも適応されます。
通常は雇用者へ代位責任が発生するためには、従業員の行為が一般的に予知できたものであり、その行為が雇用任務の遂行過程において発生する必要があります。「予知」の対象となる行為は具体的行為である必要はなく、一般的に予想可能な行為で十分とされます。例えば、飲食店で雇われたバウンサー(クラブなどにいる用心棒)が酔って暴れた客を店外へつまみ出した際に泥酔者の顔面を殴って怪我を負わせた場合、雇用者にはそのバウンサーが泥酔者の顔を殴るか、蹴り倒すか、パイプで打撲するか、の具体的行為の予知義務はなく、「(過剰な)腕力の利用」という一般的な行為が予知できたと証されば、バウンサーの行為に関し代位責任に問われる場合があります。
ある行為が雇用任務の遂行過程で発生したか否かの判断は時間、場所、過去の雇用関係、他の従業員の行動、等様々な要因に依存しますが、従業員の行為が完全に個人的な動機で雇用任務とは関係ない場合、雇用者へ代位責任は発生しません。
注意する点として、仮に雇用者が従業員に雇用業務遂行過程における特定の行為を具体的に禁止している場合でも、従業員がその行為を行う可能性を予知できる(た)場合、雇用者へ代位責任が発生することがあります。例えば、短気で暴力癖のある従業員が営業先の顧客を態度が気に食わないという理由で手をあげ、怪我を負わせた場合、その従業員の行為が個人的な動機であった場合でも、その従業員の性質を認識していた、つまり、「いつかアイツやらかすで…」という認識事実があった場合、雇用者へ代位責任が発生することがあります。
なお雇用者と従業員の関係に適応される雇用者責任法ですが、対象者が従業員(employee)ではなく、独立請負人(independent contractor)の場合は通常は雇用者責任法は適応されません。しかし、特定人物が独立請負人か従業員かの判断は漠然とした自称・他称のみでは判断されず、雇用者と独立請負人との業務遂行における判断・決断力の度合い等が考慮されます。ただ客観的にその人物が独立請負人であり従業員ではない場合でも、その行為が雇用者の命令であった場合や雇用者もなんらかの形で関与していた場合、雇用者責任法が適応されることがあります。
(弁護士 礒合俊典)

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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は5月第3週号掲載)
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