〈コラム〉転倒事故 ―雪・氷編―

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礒合法律事務所「法律相談室」

アメリカ東海岸地区では雪が降ったり止んだりしています。積もった雪が中途半端に溶けた状態で、寒波により凍り付いてしまった際には転倒事故を含む数々の悲劇が人や車を襲います。
ニューヨーク市では市の行政規定により、物件所有者、大家、又はその他建物を管理している者(以下、集合的に「責任者」)には特定の除雪・除氷義務(「規定義務」)があります。この規定義務は、責任者による建物の入り口や付近の歩道、駐車場へ積もった雪・氷の除去、それが不可能な場合、凍結防止剤の散布、その後の迅速な除雪・除氷作業、等が含まれます。
以前はこれらの規定義務の遂行責任はニューヨーク市にありましたが、2003年以降は一定の例外を除き各物件の責任者へと移行しました。規定義務を怠った場合、もしくは中途半端に遂行し、結果的に第三者が怪我を負った場合は、責任者には賠償責任を追及される可能性が発生します。
責任者は市の行政規定により前記規定義務を雪が止んでから4時間以内、雪が午後9時以降に止んだ場合は翌朝の11時までに、規定義務を遂行する必要があります。ニューヨーク市では、雪や氷上での転倒により発生した怪我への損害賠償を求める民事訴訟の場合、通常は原告による提訴、証拠開示手続の後に(示談で終了しない場合)、被告・物件責任者が裁判所へ提訴却下を求める略式判決の申立を行います。その際に提訴却下の理由として責任者は「storm in progress」を挙げることが多くあります。この抗弁は事故発生時にはまだ雪が降り続いており、責任者には除雪義務はまだ発生していない状態であったというものです。
レストランやショッピングセンター等での転倒事故のように、雪や氷とは無関係な事故及びそれらに基づく損害賠償請求事例の場合、通常は被告の抗弁の論点は「(被告による)危険状況の知識の欠如」、「被告と危険な状況との無関連性」に焦点があてられますが、雪や氷上での転倒事故の場合、「物件責任者の危険な雪・氷の状況知識の欠如」は常識的にも抗弁として強みを持たず、仮に責任者に状況知識が無い場合でも、行政規定により雪が止んでから4時間以内、または翌朝の11時までの除雪・除氷が義務付けられているために「知らなかった」という抗弁は役に立ちません。そのため結果的には「責任者は行政規定に従い規定義務を遂行し、その遂行過程・結果と事故は無関係である。」もしくは「事故発生時にはまだ雪がふっていた、よって規定義務の遂行は必要なかった。」という抗弁が通常は焦点となります。
(弁護士 礒合俊典)

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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は3月第3週号掲載)


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