礒合法律事務所「法律相談室」
個人間での民事訴訟において、どの州でも通常は被告への提訴事実の通達を原告に義務付けています。映画等で被告が「Mr. Nose, you are hereby served.」と紙切れを渡され、逃げようとしたり、ブチ切れるシーンを見かけますが、この紙切れの呈示は「訴状の通達(service of process)」と呼ばれます。
被告への提訴事実の通知は実質的には原告への義務となりますが、理論上は被告には合衆国憲法の下、自身への提訴事実を知る権利があり、その権利が尊重されない場合、国家機関(裁判所)はその被告への対人管轄権を持つことが出来ません。そのため訴状通達の不備は結果的に訴訟却下につながります。
民事訴訟の提訴段階で最も大事な訴状の通達ですが、ニューヨーク州の場合、個人間での民事訴訟において、主に三つの通達方法が使われます。
一つ目は訴状の「直接通達」です。これは文字通り被告へ直接訴状を渡す手段で、訴状通達手段の中で最も理想的とされます。気をつける点として、この手段は被告(ニューヨーク州在住者)が物理的に「州内」にいる場合のみ可能です。そのためマイアミで休暇中の被告を追いかけて行き、フロリダ州で訴状を渡しても意味がありません。
二つ目の方法は、「補充送達」と呼ばれ、被告の職場または住居にいる判断能力があり、且適切な年齢に達している(被告以外の)人物へ訴状を直接通達、その後に被告の職場もしくは住居へ訴状を送付する手段です。ニューヨーク州では適切な年齢は14歳とされています。このため見た目が十分成人している13歳の中学生の被告の娘に訴状を渡しても法的効果はありません。
三つ目に、頻繁に利用され、同時に多くの法的議論を伴う、「貼り付け送付」があります。これは「真摯な努力による被告への直接通達の試み」、「直接通達不成立」後、被告の職場又は住居へ訴状を貼り付け、その後同所へ訴状を送付する方法です。どの程の努力が「真摯な」努力かはケースバイケースで判断されますが、通常はこの手段を正当化するためには直接通達を常識的な時間帯に数回試みる必要があります。よって「夜の11時に被告宅へ一度足を運んだが、誰も出なかった。だから訴状をドアに貼り付けて帰った」という理屈は法律的に十分と見なされません。
尚、これらの訴状の通達は通常”process server”と呼ばれる専門業者が行いますが、法律上、業者を使う必要は無く、訴訟の当事者ではない18歳以上の人物であれば、友人や身内でも可能です。ただし直接通達等には危険も伴う上に、法規に沿った送付義務もあり、また訴状通達後に裁判所へ宣誓供述書の届出が義務付けられているため、通達には素人ではなく、専門業者を雇うのが無難です。
(弁護士 礒合俊典)
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(お断り) 本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません。法的アドバイスが必要な方は各法律事務所へ直接ご相談されることをお勧めします。
(次回は11月第3週号掲載)
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