“Run, Little Chicken!”
ニワトリ、逃げて!
今回は私が歯科大4年生に上がる前の夏にグアテマラで行われた歯科治療プログラム(注*歯科大生でも治療が認められている)に参加した時のお話です。
◇ ◇ ◇
3週間派遣されたのは高山にある村。米国では歯医者に行くのは特別なことではありませんが、この村の人たちにとって“歯医者”は特別な存在でした。村に歯科医院はなく、政府が派遣した歯科医らが時たま治療に来るのを待つか、私のように教会団体から派遣された歯科医から治療を受けることも珍しくありません。十分な歯科治療が受けられない村の人々にとって歯科サービスの日は特別。この機会を逃すまいと遠方の村民も朝早くから集まります。
歯科設備がまったくない状態での治療は主に抜歯。ある日、私は最低でも50本の抜歯をしたでしょうか…。簡単に抜ける歯もあれば、難しいケースもあり、日が落ちてくるとアシスタントが照らす懐中電灯が頼りの治療を行いました。そして、その日最後の患者さんは、農場で働く自分の父親のために来た青年でした。どうしても来られないと言う彼の父親を往診するために農場へ。数カ月痛みが断片的に続いているという歯を抜歯しました。治療が終わると仲間が突然ニワトリを捕まえるために走ったのです。訳が分からない私に、“ニワトリをさばいてごちそうします。それがお礼です!”と言いました。その心遣いを辞退するのは忍びなかったのですが、心の中では“Run, Little Chicken run!(ニワトリ、逃げて!)”と叫んでいました。しかし、その光景を見かねた私は新鮮な野菜の夕食で十分ですと告げました。それにホッとしたのは、あの小さなニワトリだけでなく、息が続かなくなるほど追いかけ回してくれた農夫、そして私自身も同じ気持ちでした!
Dr.Leeからのコメント
定期検診と治療が気軽に受けられる国に住んでいる私たちは幸運です。ニワトリで支払いする必要もありませんし、抜歯が唯一の治療でもありませんから!
(次回は4月9日掲載)(「WEEKLYBiz」2011年3月12日掲載)
〈プロフィル〉Dr. Clara Lee ニューヨーク大学歯学部卒業。ニューヨーク大学ブルックデール病院でチーフレジデンス修了。13年以上に及ぶ臨床経験は一般歯科、コスメティック、インプラントを含む。インビザライン認定医。Waterside Dental Care院長として古山医師と共に、多くの日本人患者さんを治療。Dentistryをこよなく愛している。記事提供:Waterside dental Care(Tel:212-683-6260)