靴について part 2
日本では以前に比べ、特に若い方の間でスーツに紐(ひも)靴を履かれている方を多く目にするようになりました。とても良い傾向と思います。やはりビジネスには紐靴の方がスリップオンより適しているといえるのです。それはなぜなのか? 少しだけ書いてみましょう。
日本においては、ビジネスの接待時に座敷に上がることが頻繁にあり、特に接待する側のお見送りなどの際に迅速に対応するため、スリップオンまたはモカシンと言いますか、なんとも日本独特の紐なし靴、正統的な仕立てのスーツに合わせるにはあまり似つかわしくない靴を合わせてきた歴史があるのです。そのような靴は日本の紳士服飾業界においてその外見から“ギョーザ靴”と呼ばれております。
スーツのサイズが適切に合っていることが前提でありますが、同じスーツに正統的なグッドイヤーウェルテッド製法の紐靴と“ギョーザ“靴とを履かれ、それぞれに写真を撮ってもらい、全体の見栄えについて比較検討してみられると良いでしょう。グッドイヤーウェルトの靴の持つ重厚さが正統的なビジネススタイルにより適していることが感じていただけると思います。
グッドイヤーウェルテッドの靴は、靴底が少し張り出しており、その部分にステッチが掛かっております。このステッチを外しますと靴底が取れ、底の張替えが可能なのです。中底にはコルクを砕き粘着剤を加えたものが敷き詰めてあります。さらにシャンクと呼ばれる鉄製または木製の板状のものが土踏まずに装填、足を踏み出すたびに返り、歩行動作を助けるのです。コルクは履き込みますと足の形にへコみ、フィット感がより増すのです。紳士靴は短靴と呼ばれ、フィットの最重要ポイントは実は踵(かかと)と甲なのです。紐靴であればこの重要ポイントのフィット具合を紐を締めたり緩めたりして調整できるのです。ギョーザ靴ではできないことなのです。足の疲れやむくみが随分違ってきますよ。それではまた。(次回は6月第4週号掲載)
〈プロフィル〉 ケン青木(けん・あおき) ニューヨークに21年在住。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服をベースにしたコンサルティングを行っている。日本にも年4回出張。