〈コラム〉ケン青木の新・男は外見 第65回

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靴について part 3

aoki0628 アメリカは英国から独立しましたね。特に東北部はその名もニューイングランド、今に至るも英国的風情が残るエリアです。マサチューセッツ州のある町では、博士号を持つ市民の比率が全米一高い町もあるそうで、Most Civilized Areaなどとも言われております。前回のコラム(6月14日号掲載)で触れましたグッドイヤーウェルテッド製法の靴の故郷も実はこの地域でして、さらにルーツをさかのぼると英国の伝統的製靴法ハンドソーン・ウェルテッドと呼ばれる製靴法にたどりつくのです。グッドイヤーウェルト製法とは、ハンドソーン(手縫いの作業)を機械化、つまり特殊ミシンで縫えるようにしたもの、といえます。
アメリカの紳士・婦人服飾業界における歴史的・世界史的貢献とは、このような新しい、工夫を凝らした機械生産設備の発明と導入により大量生産、大幅なコストダウンに成功し、欧州生まれの本来、貴族財であった紳士服その他の品質をある程度、高いレベルを保ちながら価格面でより大衆化に成功した点にあるといえるのです。
ハンドソーン・ウェルテッドは文字通り多くが手作業で、例えば蝋(ろう)を引いた麻糸をイノシシの毛の針に挟んで靴を縫い上げるといった、極めて根気の要る作業でしたが、底付けミシンなどの導入により、困難な作業に変わりはないものの、作業時間を大幅短縮、製品により均質化をもたらしました。
ニューイングランドの気候は厳しく、特に秋冬、雨雪でもタフに歩き回れる丈夫な紳士靴は、男性にとって昔から必須だったのです。そして同じ革底でも、ニューイングランドで作られるグッドイヤーウェルトの靴は、底がダブルソールと呼ばれる、2枚重ねの革底のものが多く、よりタフで雨水も入りにくく長持ちで、ちょっと無骨と言う向きもおありかもしれませんが、男性的フォルムが特徴なのです。日本の靴ではリーガル社の定番のプレーントウやウイングティップがそのような伝統を引き継いでおります。それではまた。
(次回は7月第2週号掲載)

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〈プロフィル〉 ケン青木(けん・あおき) ニューヨークに21年在住。日系アパレルメーカーの米国法人代表取締役を経て、現在、注文服をベースにしたコンサルティングを行っている。日本にも年4回出張。

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