日本人で初めて、キャピタル・ジャズ・フェスティバルで熱唱

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20代のソウルシンガー、ナオ・ヨシオカ

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© Sweet Soul Records

 

6月4日、メリーランド州コロンビアの森の中で静かに音楽の歴史が動いた。キャピタル・ジャズ・フェスティバル(以下CJF)の24年の歴史の中で、初めて日本人シンガーの歌が披露されたのだ=写真。

CJFはこの手の音楽祭としてはアメリカで3本の指に入る規模だ。今年はアイズレー・ブラザーズ、デビッド・サンボーン、マーカス・ミラーなど、米国の音楽史に名を刻むそうそうたるラインナップが出演。2万人の観客の99%がアフリカンアメリカンの大人たち。黒人音楽を昔から支えてきた生き証人たちである。このようなフェスにポツンと招待されたのがナオ・ヨシオカ。20代のソウルシンガーだ。

ナオが本格的に歌い始めたのは大阪の高校の軽音部。ジャンルはポップスからゴスペル、ソウルなど。同時期に家庭の問題など様々な困難が彼女を襲い、鬱との戦いが始まった。学校にはなじめずともステージでは歌えるという日々。歌しかやりたいことはなかった。デビューのために楽曲制作をするも叶わず、19歳でほとんど引きこもった。歌を諦め、鼻歌すら歌わない日々が2年続いた。

この潜伏期間で出た答え、それはニューヨークで歌を勉強すること。

2009年、ニューヨークに渡り、2年半の修行を開始した。

渡米して8カ月たった頃、ボーカルコーチの勧めでゴスペルコンテストに出場。奇跡は起きた。参加者4万人の中からナオがベスト6に残るという快挙を成し遂げたのだ。翌年には有名なアポロシアターのアマチュアナイトに出演。エタ・ジェイムズの名曲「アット・ラスト」を歌い、トップドッグへと勝ち進んだ。そして13年、帰国後に日本のレーベルからデビューを果たす。昨年はついに米国でもアルバムをリリースした。そんな作秋、プロモーションで訪れたDCのラジオ出演で再び奇跡が起きた。ナオの曲をラジオで聞いた人物が「すごい日本人シンガーがいる」と親類に連絡。その親戚こそがCJFの関係者で、こっそりライブを観に来たのだ。CJFへの招待出演のメールがきたのはそれから数カ月後のこと。寝耳に水だった。

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© Sweet Soul Records

こうしてナオは今CJFのステージで日本人として初めて歌うことになったのである。さて、ライブが始まり、オリジナルを歌うナオを観察する客たち。3曲目の「アット・ラスト」で空気が変わった。

アポロシアターで歌ったことを告げるや否や、それだけで沸き起こる拍手。そうなるとこっちのもの。ナオのソウルフルな歌声に観客はすっかり魅了され、惜しみない拍手とスタンディングオベーションが起きた。スタンダードほど歌の技術が際立つ。見事に7曲を歌い上げ、ナオのCJF参戦は大成功に終わった。

MCは「彼女は日本出身だが、きっと日本の南部に違いない」というジョークをかましたほど。観客は日本人という色眼鏡を外し、ナオを一人のソウルシンガーとして認めたのだ。

ナオ・ヨシオカ

© Sweet Soul Records

ナオは「私は歌で救われたので、私の歌で一人でも救われたら」と話す。彼女の歌声が全世界に届く日はそう遠くはないはずだ。
(文:DJ NAOMI)

 

〈NAO YOSHIOKA profile
2013年に『The Light』でデビュー、2015年には『Rising』でメジャーデビューを果たし、SUMMER SONICなどのフェスへも出演。更に2015年7月に『The Light』で全米デビューし、ブルーノートニューヨークでの公演も行うと、2016年にはイギリスツアーを敢行し公共国営放送BBCやテレビにも出演し現地での単独ライブも成功。6月にはソウルの本場アメリカで行われる大型フェス「Capital Jazz Fest」でレイラ・ハサウェイやマーカス・ミラーなどグラミー賞を受賞したレジェンドアーティストたちと並んで2万人規模のビッグステージに出演を果たすなど活躍の場を世界に広げている。
【SNS】@nao_yoshioka

 

〈DJ NAOMI profile
北海道出身。ロンドン留学、通信社のロンドン支局を経て札幌のJFL系列のラジオ局、FM NORTH WAVEのDJとなる。
以来20年に渡りリクエスト番組、朝番組、週末ワイド番組、トヨタ、マクドナルドの特番など数々の番組を担当。エグザイル、ユーミンからレディ・ガガまで何百人ものインタビューをした。ブラックミュージックの専門雑誌、フリーペーパーなどにライブ・レポート、エッセイを連載。2009年にNYに移住しFM NORTH WAVEの番組「Urban Hype from NYC」を放送中。NYを訪れるアーティストのコーディネーターとしても活動。
趣味は食、街歩きとヨガ。日本の料理学校資格、ヨガは日本とアメリカのインストラクター資格(RYT500)を持つ。
【SNS】@djnaominyc

 

(2016年7月2日号掲載)

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