宮本亜門(2)

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海外で作品を手掛ける思い
いろんな舞台を日本でも海外でもつくっていくことが僕の天命

「ガチ!」BOUT.71

 

宮本亜門
ミュージカルの演出家として、また、オペラの演出家として奇才を放つ宮本亜門さんが、米国にて2度目の公演となる「TEA: A Mirror of Soul」を演出。2006年のサンタフェでの公演の際には、現地の新聞で「excellent direction was subtle and graceful(繊細で優雅な素晴らしい演出)」と評価され、外国人が好むアジアのエキゾチズムを絶妙に表現した舞台に多くの賞賛の声が上がった。そんな宮本さんの創作への熱意、さらには、海外で演出を手掛ける思いについてお話をうかがった。(聞き手・高橋克明)

 

オペラ「TEA: A Mirror of Soul」を演出

現在、オペラ公演の真っ最中ですよね。

宮本  はい。今回はフィラデルフィアです。2007年に(ニューメキシコ州の)サンタフェで行った「TEA: A Mirror of Soul」というオペラをやっています。
以前から、将来的にはオペラをやっていきたいと思っていたので、(作曲家の)タン・ドゥンからこの話をもらった時はうれしかったですねぇ。そして、サンタフェでの公演が好評だったので、今回東海岸でもやることになりました。

亜門さんと言えば“ミュージカルの演出家”というイメージでしたが、オペラとミュージカルとでは、演出の仕方は違いますか。

宮本 初めての時は、台本がなく歌が書いてある譜面だけをめくって演出しなければいけないことに、驚きましたね。台本を読んできた者にとっては、せりふがなく譜面だけで呼吸や間を含めたリズムをつかむのが難しいんです。呼吸も間もすべて。もちろんオペラから演出を始めた人はそんなことないと思うんですけど。同じパフォーマンスの世界であっても、違う方向から違う見方をしないと演出はできないということですね。
あとは、外国語ですね。今回の「TEA」は英語ですが、オペラだとイタリア語やドイツ語が多いので、言葉が理解できるできないもかかわってくるんですよね。僕にとっても、試練かなと思うんですけど。(笑)
今回の公演では米国人スタッフが多いですが、ヨーロッパ公演では、たいていいろんな国の人が混在しています。歌手もスタッフも指揮者も、みんな稽古(けいこ)場では英語を話すんですが、実際に舞台に出るとイタリア語だったりするんですよね。とっても不思議な現場ですよ。

「TEA: A Mirror of Soul」ⓒ 2007 Ken Howard/Santa Fe Opera

「TEA: A Mirror of Soul」ⓒ 2007 Ken Howard/Santa Fe Opera

当然ですが、ミュージカルの演出とはまったく違うものなんですね。

宮本 そうですね。言葉もそうですけど、オペラ、ミュージカル、演劇にはそれぞれの流儀があり、国によっても違う。だけど、そのカラフルさがまた面白い。その国のオペラやその国のミュージカルの流れを知ってこそ、見ている人に面白いとか、新しい表現だなと思わせるものをつくっていけるのではないでしょうか。そして、今回の「TEA」みたいにサンタフェ、フィラデルフィア、この後はバンクーバーの予定が入っているんですが、このように一度で終わらず、どんどん広がっていけるのも、オペラならではですね。

まさに、世界中に、ですね。

宮本 あらゆる国に行きたいんですけど、僕も50を過ぎたんで、早くしないと命が短い。(笑)

なんてことおっしゃるんですか。(笑)

宮本 あはは。先輩たちも苦労なさってそれぞれの道を切り開いてこられたことなので、大変だとは思いますがやりがいはあります。でも、こうして目標を持っていられるのは幸せなことですし、たくさんのスタッフたちと一緒にクリエイトしているときに、あー、やっぱり宮本が居てよかったなと思われる実感を、その作品ごとに感じられれば素晴らしいですね。

宮本亜門

昨年も日本でオペラをなさってましたが、ものすごくお忙しいのでは。

宮本 実は、沖縄にも家があるんですが、そこで海をじっと見ていると、つい全部やめちゃおうかなと思ったりすることもある(笑)。自然に逆らって、僕は必死になり過ぎてるのかなって。そして、日が沈むまでぼーっと海を眺めていると、結果的にまたエネルギーが蓄積されてね(笑)。自分ができることを最大限やればいいんだって気持ちになるんです。いろんな舞台を日本でも海外でもつくっていくことが僕の天命なのかなって。

亜門さんにとって、沖縄は非常に重要なポイントなんですね。

宮本 そうですね。あそこがないと、僕はきっとバランスが取れていないかもしれませんね。

この摩天楼のニューヨークとは全然違いますか。

宮本 うーん。でもニューヨークもすごく好きで、何て言うか、沖縄とニューヨークってある意味では似てるんですよね。沖縄は、岩であり海であり台風であり、巨大な自然のパワーがあるんです。木の根っこがどんどん伸びてきて、家のコンクリートをつぶすんですよ! そういう巨大な自然のパワーの中にぽつんといると、とても孤独な、恐怖感もありますが、逆にそれが自分の存在を再認識させてくれる大切な場所なんです。
それと同じ感覚がニューヨークにもあってね。自然ではなく人間がつくった人工物だけど、巨大なカオスのようなものがあって、人もビルもみんながゴーッと動いている渦の中でふと、孤独とともに、だからこそ頑張ろうと思えるんです。沖縄もニューヨークも生やさしくない。そこが好きなんでしょうね。(笑)

亜門さんのニューヨーク公演というと、6年前のブロードウェイでの「Pacific Overtures(太平洋序曲)」がまず思い出されますが、演出家として、あの公演前と後で、ご自身の中で変化などありましたか。

宮本 “ブロードウェイ”という、一つの歴史をつくり上げてきた人たちの世界観の中に入って、その壮大さにあらためて感動しましたね。あれをつくってきたのは人間たちですから。作詞家や作曲家、演出家があーでもない、こーでもないとやり合ってつくり上げてきた作品群なんだなってね。そういう愛おしさもあるし、今あるもの以上の作品をつくろうとする人たちが、次の名作をつくっていくんだろうなと思うと感動しちゃいますね(笑)。もちろん、今のブロードウェイはあまりにも大きなビジネスとなっているので、それにかかわるというプレッシャーはありますけど。

日本で演出されるときと海外でされるときの違いはありますか。

宮本 それほどないかな。強いて言うと、日本はまじめな人というか、硬い役者が多いので、オーディションのときは、まず彼らをリラックスさせるためにくだらない冗談を言うんですよ。リラックスさせて、一番いいものを見せてほしいんですよ。

なるほど。

宮本 逆に、外国人はもともとリラックスしてる人が多いんでね(笑)。自分をアピールすることに慣れているので、あまり謙遜(けんそん)がないんですよ。だから、オーディションに行ったときなどは楽ですよ。
また、こっちの人はまず話し合いの場を持ちたがりますね。ただ演出家の言う通りに動いてくれというのを嫌がります。一番最初の米国公演の時、日本と同じ感覚ですぐに動きの指示を出したら、みんなの目がどんどん輝きを無くしていってね。亜門さん、もっと話し合いの時間を持った方がいいよって言われたんです。あれ以来、変えましたね、稽古の仕方を。なので、フィラデルフィアでやった時は、もう話さなくていいよと言われるまで、みんなの腕をつかんで話しました(笑)。役者もクリエーターなので、自分の意見をどんどん言ってもらっていいし、それがものをつくっていくうえで楽しい現場になると思うんで。

最後に、読者である米国在住の日本人にメッセージをお願いします。

宮本 アメリカって温かさもあるけど厳しさもある。ここであきらめずに、自分を過小評価せずに、自分にできることをどんどん広げていってほしいと思います。そういう人たちが時代を変えていくんだと僕は思いますから。世界中には、いろんな、カラフルな生き方があるし、それを少しでも知っている人たちがいるということは、今後の日本にとっても素晴らしいことだと思っています。

宮本亜門(みやもと あもん)
職業:演出家
東京都出身。高校時代に〝音〟の素晴らしさに出会い、演出家を目指す。ロンドン、ニューヨークでの留学を経て、1987年、オリジナルミュージカル「アイ・ガット・マーマン」で演出家デビュー。翌年、同作品で文化庁芸術祭賞を受賞。ミュージカルだけではなく、オペラ、ストレートプレイなどの演出家として幅広く活躍。2004年には、ニューヨークのブロードウェイにて「太平洋序曲(Pacific Overtures)」の演出を東洋人で初めて手掛け、05年に同作品でトニー賞4部門にノミネートされた。07年にサンタフェで上演されたタン・ドゥン作曲・指揮の現代オペラ「TEA:A Mirror of Soul」を今年2月、フィラデルフィアで再演し、また6月にはロンドンのウエストエンドでミュージカル「Fantasticks」の幕が開く。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2010年3月27日号掲載)

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