NYでの暮らし必然だった
「ガチ!」BOUT.43
テレビ、ラジオで活躍するタレントでエッセイストの兵藤ゆきさん。1年前、家族とともに11年間住んだニューヨークを離れ帰国した。今も変わらず本紙に寄稿してくださっている兵藤さんを久しぶりに訪ね、帰国後の日本での生活や、帰ってみて気が付いた日本とアメリカの違いなどについて語ってもらった。(聞き手・高橋克明)
本紙コラムニスト、帰国して1年
今だから感じる日米の違い
兵藤 久しぶりー! 元気だったぁ!?
ご無沙汰してます。ゆき姉に元気をもらいに来ました!
兵藤 いっつも読んでるよ、「ガチ」。これ(このインタビュー)、「ガチ」だよね。
そうです。あ、ホント読んでくれてます?
兵藤 うんうん。すっごく面白いねえ。
おかげさまで読者のアンケートでも評判良くて。
兵藤 (すかさず)あたしのエッセーより?
そんなわけないじゃないですか。
兵藤 ほんとに?
ゆき姉は別格ですから。
兵藤 別格って言っといて、これは一面丸々使ってさ、あたしのエッセーは660字だよ、少な過ぎるよー、ずるいよー!
兵藤ゆきがムキになってくれるなんてうれしいです。
兵藤 自分の方が紙面大きいじゃん!!
(まだ言ってるよ…)。でも先日のアンケートでは人気投票1位はダントツでゆき姉のエッセーだったんですよ(212票獲得)。全然かなわなかった。
兵藤 あっ、そうでしたか、皆さまどうもありがとうございます。これからも頑張りまーす、って、いきなり態度変えてどうすんのよねえ。ところで、今まで会った人で誰が一番すてきだった?
兵藤さんです。
兵藤 は?
ゆき姉です。
兵藤 うまいねえどうも。じゃ、そろそろ本題に行こうか。
今日はゆき姉にですね、肌で感じたアメリカと日本の違いを話してほしいんです。日本に戻られてちょうど1年経ったくらいですよね。2つの国のあらゆる意味においての違いを今一番冷静に感じる事ができる頃じゃないかなって。
兵藤 はいはい。
どうでしょう、日本で生活が始まって感じる事ってありますか。
兵藤 いいっぱいあるよ(笑)。いっぱいある。
それを全部吐き出しちゃって下さい。
兵藤 日本はねえ、正直言っちゃうと自由という意味においてはやっぱりまだまだこれからなのかなって。
はー。
兵藤 封建的な雰囲気がまだ根強く残ってるでしょ。
そうですね。そう思います。
兵藤 年末になると(テレビでも)毎年、忠臣蔵の話をやるでしょ。あれはしんどい話よねえ。いじめが原因で言ってみればお殿様は逆ギレしたわけだ。そんで、逆ギレした主君のために、周りが命を捨てて仇(あだ)討ちしてさ。子供たちも含め犠牲になっちゃってさ。忠臣蔵は封建時代のしんどい話よね。現代はそこからの教訓を生かせていればいいんだけど、似たようなことがまだまだたくさんあるもんね。
ゆき姉のいつも言ってる「フェア」ではない事ですよね。
兵藤 そうね、封建的な精神構造がまだそこここにあるから、ちょっとだけだけどアメリカで生活したあたしからすると、しんどいなあって思う事がいっぱいあるな。
なるほど。
兵藤 この間もお母さんが3歳くらいのはぐれた子供に「どこいってんのよ!」って怒ってるのを見て、違うでしょ、あなたが子供にごめんでしょって。「ごめんねママちょっとうっかりしちゃって見ててなかったから」でしょって。子供がはぐれた事で子供を叱(しか)るのはおかしいよね。そんな人たちがモンスター・ペアレンツみたいになっちゃうのかなって。あと、店員とお客さんとかもさ、「おねえちゃん! これちょっと片付けて!!」って怒鳴るように言うじゃない。
それは僕もびっくりしました。サービス業の人にやたらと強いですよね。
兵藤 あれはやっぱり封建的な階級制度社会の名残を感じさせるよね。(店員を)ちょっと下にみるというか。そうじゃなくて大人同士の会話しましょうよって。ニューヨークだと必要以上に店員がへりくだる事なんてないじゃない。
なさすぎるというか。
兵藤 (笑)。うん、なさすぎる。その両極端を見ちゃってるから日本の人たちにはもうちょっとお互いをきちんと尊重し合おうよって思っちゃうね。成熟してないところはいっぱいまだまだあるんだなーって。以前、日本で住んでた時は当たり前だったからそれに気付かなかったんだけど。
どうしたらいいんでしょう。
兵藤 まずは子供を子供扱いしないで、親がきちんと尊重して意見を聞いてあげる事。その子供たちが大人になった頃から本当の意味で日本は民主主義の国に変わっていけるかもと思うんだ。今の日本ではあなたはどう思う? って聞いてあげない大人が多すぎる。子供だから黙っとけって言って、子供は子供で(自分たちは何も)言っちゃいけないと思ってる。社会自体に子供社会と大人社会の(必要ない)線引きがあるよね。今考えるとだけど、アメリカにいる時はその線引きを感じなかったなあ。
子供を一人の人間としてちゃんと尊重してあげる事というか。
兵藤 レストランとかで子供もきちんとボーイさんにジェントルマン扱いされてて、「何になさいますか」って聞かれるし。ジェントルマンに扱われるとその後もずっとジェントルマンとして行動するよね。ぐずったりしてる時なんかも、お母さんが、今あなたは何してるのか分かる? 自分がしてる事をよく考えてごらん。って言ってたりさ。今あなたがしてる事はどうなのこの社会の中で、みたいな。
頭ごなしに怒鳴ったりはしないですね。
兵藤 ニューヨークでは学校でも日本ほど先輩後輩ってないよね。パシリなんて当然いなかったわけで先輩のユニホーム洗ったりなんて絶対ないじゃない。年が上ってだけでなんでえらいの? っていう。すごくフェアだよね。あと、制服。学ラン見るとね、何かかわいそうな気がしてならない。いまだにボウズで学ランの子っているじゃない。なんで思春期の真っただ中にそんな詰め襟の黒い服着せてるのって。今自分で考える力をつけましょうっていう教育にシフトしてきてるわけで、だったら逆じゃん。詰め襟着せて、ボウズにさせて。自分で考えちゃいけないって言ってるのと同じだよ。それってすごく怖いよね。
少しかわいそうな気がしますね。
兵藤 多分、本当の民主主義ってモノが分からなくなってきちゃってるのかなあ。うちの子が(アメリカの)幼稚園のとき、あの当時は大統領選挙でゴアとブッシュの事を子供たちが話し合うっていうのをやってたのよ。4歳児、5歳児が「あたしだったらゴアに投票する」「いいやブッシュに一票入れる」って。社会に目を向けて自分の言いたい事を自分の言葉できちんと言う。考えるっていうのはそういう事で、それが民主主義だと思うよね。だからアメリカでは「読み書き」より「話す聞く」を最初にやるよね。「Show And Tell」っていうのがまずあって、それから字を覚えていく。やっぱりそりゃそうだろうってあたしは思う。日本ではお話を聞く時は「手はおひざよー」「ちゃんと相手の目を見ましょうねー」って形からだよね。小学校に上がってもまずは「前ならえ」とか「気をつけ」とか、とりあえず団体で動く事ばかりを覚えさせられちゃって、がんじがらめだよね。アメリカの幼稚園だと、最初は寝っころがって聞いてた子もいるけど、とりあえずやろう、話そう、って。まず風呂敷を広げちゃってからたたんでいきましょう。で、日本はまずたたみ方を教えてこの中から出ないようにねって。そこから始まっちゃう感じだよね。
確かに人間の自然な姿ってまずは人の話を聞いて、人に話すってとこからだという気がします。
兵藤 うんうん。「話す聞く」だよね。日本にとって民主主義って借り物じゃない。戦争に敗れて民主主義にしましょうってなったから、自分たちが民主主義のために立ち上がって作ったものではないじゃない。
戦争で勝ちとったものでもないですしね。
兵藤 だからあたしもそうだけど、何がなんだかわからない部分もまだあるのよ。民主主義ってどういう事って、みんな自由だよって、でも学校では廊下に立っとけって先生に言われたり、(理屈抜きで)先生を敬えって言われたり。でもその人を本当にリスペクトできる? そういった意味では日本の民主主義ってまだまだ借り物なんだねって思うよね。
うーん、考えさせられちゃいますよね。
兵藤 例えば、今日本で起きている事件って、いじめにしてもそうだけどいじめをしている子も窮屈なんだと思うよ。よく、いじめの話になるといじめられてる子も何か原因があるんじゃないか、いじめられてる方にも責任はあるんじゃないかっていうじゃない。
テレビのコメンテイターとかよく言いますよね。
兵藤 でもあたしは絶対そうじゃないと思うのね。いじめてる子に問題があるわけで。その子がなぜいじめなきゃいけないのか。ストレスだと思う。親から周りの先生からどう思われているか。どう扱われているか。人間って認められたら自信もつくしうれしいよね。認められないと自分より不幸な子を作ろうと誰かをいじめちゃう。それでバランスをとるというかさ。人に認められている幸せな子はいじめには参加しないと思う。
うーーーん。やっぱりいい事言うなあ。
兵藤 あははは。
そういった考えはアメリカに住む前と今では…。
兵藤 変わったね。確実に変わった。だから今考えればニューヨークで暮らしたのは必然だったような気がする。
あー、そうですか。
兵藤 ちょうど子育ての時期で息子の人格が形成される時だったから。だから本場の民主主義で子育てしてみろよって言われたのかなって。今までゆき姉とか言われてDJとかやっていろんな子としゃべってきたけど、1回実際に体験した方がいいよって言われたような気がして。うん、やっぱり必然だったね。
じゃあ、ニューヨークにいた期間っていうのはすごく良かったってことですね。
兵藤 良かったなー。あたしはあの時期に行ってなかったら、ちょっと怖かったね。今考えるとね。少なくとも今のあの伸び伸びした息子ではなかったかもね。伸び伸びとした子供たちを育てる親たち、教えている先生たちを見ることができただけでもね、やっぱり勉強になったよねえ。
あのじゃあ逆に日本に帰ってきて良かったなーと思う事って生活の中であります?
兵藤 (ボソっと)。実を言うと、あんまりないんだよね。
でも例えば食べ物がおいしかったり。日本食が豊富だったり。
兵藤 でもニューヨークってサンライズ(マート)もあるわ、ミツワもあるわで普通に日本食があるじゃない。ZAIYAのパンもおいしいし。
…そうですよね。
兵藤 今はむしろニューヨークのピザ食べたいと思うもん。(笑)
じゃあ、娯楽系はどうですか、テレビなり雑誌なり…。
兵藤 あるじゃんね普通に、ニューヨーク。週刊誌もテレビのDVDも。
…そうですよね。
兵藤 むしろこっちだとテレビ見逃しちゃうと、もう見れないのよ。向こうだとテレビ番組借りられるでしょ。ニューヨークの方が逆に見逃す事がない。今はYouTubeもあるしね。
…。そうですよね。
兵藤 テキサスだったりオレゴンだったりするとまた違うのかもしんないけど、ニューヨークはね、やっぱり便利だよね。
…でも例えば…駅とかにコインロッカーとかないですよね。
兵藤 なきゃないで済むでしょ。
…はい、済みます。済んじゃいます。
兵藤 至れり尽くせりすぎるよね、東京は。だからといってニューヨークにもう1回住みたいとか、東京が嫌だとか思ってるわけじゃないのよ。ただ、(2つの国に住んでみて)いろいろな違いが面白いなって思う。何か、もうどこにでも住めるって気がしてるもん。(笑)
なるほど。じゃあ、最後の質問です。ニューヨークで一番懐かしいなあって思う場所ってあります?
兵藤 デイリーサンのオフィスね! また遊びにいかなきゃって思う。(笑)
(笑)。ぜひぜひ、いっつでも。社員一同お持ちしていますね。
◎インタビューを終えて 久しぶりにお会いした兵藤さんはやっぱりというより予想を超えた元気っぷりでした。この不況の昨今、彼女の笑顔に元気をもらいました。やはり本紙編集部にとっては特別な存在で、タレントさんというより文字通り「姉さん」的存在です。関係ない話も含め六本木のオフィスでお昼までごちそうになりました。ゆき姉、ごちそうさまでした!
兵藤ゆき(ひょうどう ゆき)
職業:タレント、エッセイスト
愛知県名古屋市出身。東京・名古屋・大阪で深夜ラジオのパーソナリティーを皮切りに、個性的なキャラクターでテレビ番組に登場し脚本、作詞、歌手等多方面に活躍。1996年長男誕生後、家族とともに11年間ニューヨーク(NY)で生活。現地で活躍する日本人8人の方との対談集「頑張りのつぼ」(2005年角川書店)、初の翻訳本「こどもを守る101の方法」(2006年ビジネス社)、帰国後は、NYで見た大人と子どものいい関係をまとめた「子どもがのびのび育つ理由」(マガジンハウス)、親子で集中力、勉強力、運動力を伸ばす「脳を育てるからだ遊び」(ビジネス社)を執筆するなど著書多数。
■新著紹介 「脳を育てるからだ遊び」
兵藤ゆき、飯田覚士 共著
親子で集中力、勉強力、運動力をぐんぐん伸ばす! 元ボクシング世界チャンピオンの飯田覚士さんと、タレントで一児の母である兵藤ゆきさんが、子どもの身体的、体力的能力の向上に役立つメソッドを、対談方式で楽しく紹介する。
飯田さんは、神経の発達が活発な5~12歳の時期に、「眼」と「身体」をたくさん動かし、どれだけ多くの神経刺激を受けるかが、その後の脳の成長に大きく 影響すると指摘。独自で開発したトレーニング方法を4つに分け、集中力、読解力アップにも直接つながるといわれる身体能力を、短時間で向上させる「からだ 遊び」のノウハウを、分かりやすいイラスト付きで紹介している。ビジネス社出版、全カラー80ページ。
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2009年1月1日号掲載)