高城剛

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今こそ「CHANGE」〝21世紀〟へ
新しいNYの象徴に

「ガチ!」BOUT.44

 

 

ホリデー期間中、液晶テレビ「アクオス」43台を使ったクリスマスツリーがグランドセントラル駅構内に登場した。シャープが誇る色彩技術に、ハイパーメディア・クリエイター高城剛氏が作り出した映像のコラボが、ニューヨークのホリデーに花を添え、各メディアでも取り上げられている。世界中を飛び回り忙しい日々を過ごされている高城さんに、今回のプロジェクトのことや、ニューヨークのこと、今後の活動について伺った。(聞き手・高橋克明)

 

「アクオス」でXマスツリー ホリデーのグランド・セントラル・ターミナル 

作品を目の前にして今のお気持ちはいかがでしょう。

高城 いやぁ感無量ですよ、本当に。自分の大好きなニューヨークで自分の納得のいく作品を提供できて、そして通り行くアメリカ人がデジカメで撮ってくれてて…僕にとってはこの上ない話です。(モニュメントは)自分の想像を超えてすごくすてきなものになったと思いますね。

今回のこの「アクオス・エクスペリエンス」の製作を引き受けた経緯をお聞かせください。

高城 シャープにしてもアメリカにおいて、日本製ハードウエアのクオリティーの高さって、すでにみんな知ってると思うんです。ただ、これからはハードだけでなく、ソフトウエアとしてもアプリケーションとしても日本はどんどん進出していかなきゃいけない。僕はそう思ってるんですね。つまりシャープがアメリカで活躍するように、(ソフトをつくる側である)僕たちもそれに追いつく感じでハイクオリティーであり、ハイパフォーマンスなものをアメリカに提供していかなきゃいけない。それが(今回のモニュメントで)ひとつできたのかな、とは思っています。

マンハッタンのど真ん中、グランドセントラル駅構内で開催される事になりました。

高城 いや、もう特別なものですよ。僕が初めてニューヨークに来たのが20年以上前、大学生の時ですけどもその時に初めてここグランドセントラルに来て、この圧倒的な空間に感動したのをよく覚えてるんですね。そこに今こうやって仕事ができるようになって…。何度も言うようですけど感無量ですね。

最近のニューヨークのイメージをどうとらえられていらっしゃいますか。

高城 いろんな意味で思わしくないですよね。多分それは20世紀的なものから21世紀的なものに移り変わる、その混沌(こんとん)期から来るモノだとも思うんですよ。ですから今まさに「21世紀とは何か」、そして「本当にすてきなものは何か」。それを考える必要があると思いますね。

このモニュメントがそれを考えるひとつのきっかけになればいいですね。

高城 そうですね。今、オバマ新大統領は「CHANGE」という言葉を使っていますよね。例えば(この街を)象徴するモニュメントのひとつはロックフェラーセンターのツリーだと思うんですけれども、それとは別に僕の中ではニューヨークが変わるんだ、21世紀を迎えるんだっていう、そういうモノを作りたかった。ですから(今回のモニュメントを)新しいニューヨークのひとつの象徴にしたいなって、なればいいなって思って作りました。ニューヨークは今まさに変わるときではないでしょうか。

高城さんは非常に環境問題に関心をお持ちですが、今回のこのモニュメントもその一環と考えていいんでしょうか。

高城 はい、そうですね。この版型は来年も使います。木を伐採してどうのこうのとかではなく、何度も何度も繰り返して使えるもの。もっと言うとこれ自体をどっかへ持っていく事もできます。そしてそれはとても重要な事だと僕は思っています。

今回の映像はどのようなコンセプトで作られましたか。

高城 大きなテーマとして僕は「Beyond」っていう事を考えています。20世紀を超えて21世紀に向かっていく。人間が持っている自然なオーガニックな感情、それでいてまだ見た事のないもの。人間の可能性みたいなものを追求していきたい。コンピューターグラフィックスと実写をうまく融合させていく。アナログのいい所とデジタルのいい所を融合させていく。アナログを超えてデジタルを超えて次に行くんだっていう、そういう思いが僕の映像には込められています。

最後に読者にメッセージをいただけますでしょうか。

高城 今回、本当に感じたのはアメリカ人は今、いろんな意味で日本人に期待しています。それは間違いないですね。日本人が作るものや、ものの考え方、そして日本人が世界的に何かいい事をしてくれるんじゃないかって。ですから僕たちはそれに応える時期だと思いますね。アメリカが調子悪いから去るのではなく新しい何か、「世界の日本」というモノを作っていかなければいけないと思うんです。

日本人にとっては大きなチャンスとも言えますね。

高城 まさしくその通りで、新しい提案をアメリカを通じて世界にしていくにはベストなタイミングだと思いますね。だから僕はいつかまたニューヨークに戻ってきて、さらにすごい事をやりたいなと思っています。

◎インタビューを終えて お会いする前のイメージは「世界で一番忙しい人」でした。事実、ニューヨークのレーベルと契約しているにもかかわらず、スケジュールが合わないため、DJをやる機会がなかったというほど。その「ハイパーメディア・クリエイター」ぶりにお会いする前はつい構えてしまっていました。でも実際の高城さんは常に笑顔で、そして何より分かりやすい言葉でご自身の思いを説明してくださいました。取材中も「この子と写真撮ってくださいますか」と子連れのお母さんが来る場面もあり、その3歳くらいのお子さんは明らかに面倒くさそうでお母さんが撮りたいんだろう空気が現場では満々でした。それでも笑顔でその子の目線までしゃがみ込み、高そうなコートの膝(ひざ)を地面につけてまで撮影に応じていらっしゃいました。時代の最先端を走るクリエイターはあくまで謙虚で、それでいて人を惹(ひ)きつけずにはいられない男でした。

高城剛(たかしろ つよし) 職業:ハイパーメディア・クリエイター

1964年生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオ・ビエンナーレ」でグランプリを受賞。総務省情報通信審議会専門委員など要職歴任。六本木ヒルズのCMや「ルイ・ヴィトン」のアニメーションなどの映像や、ナイキの「エアマックス」、ソニーの「AIBO」など話題の商品の立ち上げを数多く手がける。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。情報家電メーカーから金融まで、あらゆる業種業態をクライアントに持つ。

■Information

 電気大手シャープの液晶薄型テレビ「アクオス」で作られたクリスマス・ツリー「アクオス・ エクスペリエンス」がホリデーの間、グランドセントラル駅構内で展示された=写真。右上も。シャープ・エレクトロニクス・コーポレーション(USA)とフ ジサンケイ・コミュニケーションズ・インターナショナル株式会社(FCI)が共同製作した同ツリーは、19~52インチまでの「アクオス」計43台を使 用、高さ8メートルに及ぶ巨大造作物となった。映像は「未来」をテーマに、高城氏が製作した。

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2009年1月10日号掲載)

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