樹木希林 人間としてどう生きるかが私の役作りなんです

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「ガチ!」BOUT. 266
女優 樹木希林に聞く

『モリのいる場所』などがNYの日本映画祭で上映

個性派として知られ55年以上にわたり多くの映画、ドラマで活躍。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数多くの賞を受賞している樹木希林さん。今夏、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催された北米最大・日本映画祭「JAPAN CUTS」に参加するため来米された。役作り、各国の映画祭、ニューヨークについてお話を伺った。
(聞き手・高橋克明)

昨夜、ニューヨークに到着されたそうですが、時差などでお疲れじゃないでしょうか。
樹木 もうね、風前の灯火(笑)。ただ、息をしてるだけって感じです。

でも、お顔の色つやも良くて…。
樹木 化粧しないからね(笑)。(出演された『モリのいる場所』の写真が表紙を飾った本紙を指差して)この時(撮影中)からへたばってたけど、ここからまた10キロくらい痩せてね。でも(今回の授賞式に)呼んでいただいて、行きます!って約束したので来させていただきました。(ニッコリ)

そして、今回は「CUT ABOVE」賞の受賞おめでとうございます。
樹木 もうね、75(歳)って日本では後期高齢者っていって「あなたは年寄りだから、もう、じっとしてていいんですよ」っていう年齢なんですよ、私(笑)。こんな派手なところで何かを頂くっていう立場ではないんです、もう。次の(世代の)人(たち)に渡す立場の人間だと(当初は)思いましたけれど。

今回の作品『モリのいる場所』の出演オファーを受けた理由はなんでしょう。
樹木 この作品自体、たった一日のことを描いているんです。他の映画だと、そこに人を殺したり、人を好きになったり、何かの事件があったりする中、ただの一日の日常生活を描いてる。でもね、演じる側としては、その日常生活(を演じるの)は基本ですから。そこに魅かれましたね。

日本を代表する女優として、役作りでいちばん気をつけていることは何でしょう。
樹木 それはね、演技をやるために役者を生きてるんじゃなくて、人間をやるために生きているということ。生きていく中の一つの生業(なりわい)として、役者っていう職業に就いただけなんです。だから、まずは人間として自分がどう生きるかということが、大切だと思ってますね。(そうすれば)こういう環境のこういう人だったら、そこでそういうふうにして生きていくのかな、って分かるようになります。なので、演技を見つけていくんじゃなくて、まずは人としてどう生きるか。そういうふうに思って役作りをしてるんですね。

なるほど。では女優というその生業を選んで、人として良かったと思う瞬間はどういった時でしょう。
樹木 あのね、今まで身過ぎ世過ぎで演じてきたから、結果がどう出てもあまり感動がないんですね。だから、あの役を演じたいとか、あの役を仕留めたいとか、そういうのは一切ないんです。だから将来の展望も何もないの。どういう役を演じたいですか、なんて聞かれても、何もないんです。ただ生きてれば次に仕事が来て「やれるかなー」っていう感じ。だから役者というものに対して、何も期待はしていないの。それは本当にそうなの。もう少しこういう役をやりたいとかって思ってもいいはずなんだけど、そういうふうには全然思わないの。思えないの。

あくまで、役者としてというより樹木さんの場合はやっぱり人として、
樹木 (さえぎるように)…妖怪の役はしたいかな。(笑)

あはは。では、オファーがあった役は基本断らない?
樹木 やっぱり60年もやってるとね、様子が分かります。今、マネジャーもいないし、事務所もないの。FAX1台だけ置いてあって。皆さんね「マネジャーがいなくて、ギャラ交渉が大変でしょう」って言うのね。ギャラの交渉ぐらい簡単なものはないのね。「これはどのぐらいもらえるんですか」って言うと「これぐらいでいかがでしょう」って。だいたいほら、全体の規模が分かるじゃない。この人が出てて、この監督で、この制作会社だったら、これぐらいだろうなって。その中で、「ああ頑張って出してくれたな」って思えば「結構です」って言うし、「うーん…他の人でやってください」って言う場合もあるし。もう簡単なの。ということはね、やっぱりね、ある意味でいいも悪いも、自分のことを俯瞰(ふかん)で見てる。自分が今この世界でどのぐらいの位置にいるのかなというのを見誤らないようにしてるんですね。だから、ちょっと誇大評価されて、多めのギャラ言われると、「いやそれはちょっと、そこまで頂かなくてもいいです」っていう時もあるんですよ。そんな感じで仕事してるの。楽でいいですよ。

かつてさまざまな監督とお仕事をされましたが、最も尊敬される監督は誰でしょう。
樹木 今の(時代の)監督さんたちは、年齢的に私の方がもう上なんですよね。技術的なものは、もう全然私には分からないけれど、人間を作っていく、人間を見てる、そういう監督は皆さん尊敬できますね。それは年齢は関係ないですね。そういう意味ではこの沖田(修一監督)さんは、人を描こうとする物語を描くよりも先に、そこに生きてる人間を描こうとする。これがこの人の武器だなあと思います。

樹木さんは過去ご自身が出演された作品を見直すことってあるんですか。
樹木 全然。

あ…っさり。(笑)
樹木 だって見てもしょうがないから(笑)。まして今、試写会ていうのやるでしょ。みんな知り合いばかりいて、嫌でしょうがない。あんなところで見させられても、冷や汗ががーって出るの。そういうのやだなーと思っても、もう席取られちゃってるから。できれば、演じたらそれっぱなしっていうのがいいですね。私の性格的はね。(ニッコリ)

世界中の国際映画祭にも試写会で席を取られて(笑)出席されていらっしゃいます。各国で観客の反応に違いはありますか。
樹木 ほとんどないですね。それがすごいと思う。みーんな同じ。だから人間は国が違っても、社会の仕組みが違っても、やっぱり根本的に感じるものが一緒なんだなぁって。その確信は持ちましたね。それが分かっただけでも、(世界の映画祭に)行って良かったなと思います。

ニューヨークの思い出はいかがでしょう。
樹木 何回か来てますね。メトロポリタン(美術館)に行ったり、娘が9歳の時にホームステイでニューアークまで送ったり。いいところも、そうでないところもある街ですね。私は、あんまり…こう、「都市」っていうのが性に合ってないみたいで(笑)。あんまり思い出っていうのがないですね。

ニューヨークの日本人にメッセージをくださいますか。
樹木 東京とはまた別の意味で、すごい都会の中のアスファルトジャングルって印象。日本から来て、ここに生きようとする人のね、強さみたいなもの。これはちょっと、私には想像つかない。若さなのか、何か分かりませんけど。いやー、もうとてもじゃないけどもすごいと思うんです。私なんかは、こういうところで生きていったならば、なんか自分を見失っちゃう。日本ってね、あんなに祈りの場所がある国は世界的にも珍しいんですって。

祈りの場所。神社仏閣ってことですか。
樹木 そう。私なんか、宗教関係なく、手を合わせて祈る場所がいっぱいある国にいるから、やっと、生きていけるなって思うんです。そう考えると、このニューヨークで生きてる人って、タフだなあと本当に思いますね。でも日本の良さを、その人たちには世界に伝えてほしいって思います。まあ、今の日本に良さがあるかどうか分かんないけど、本来はすごい国だと、私は思っているんですね。ダライ・ラマじゃないけど、これからの世界で、やっぱり日本という国が果たさなきゃいけない役目ってあるだろうって。それはやっぱり精神的な意味で牽引(けんいん)なされるべきじゃないかなって。なので、日本からニューヨークに来て、生活なさっても、日本の良さは忘れないでほしい。そして、伝えてほしい。そう思いますね。それにしても…。

それにしても…?
樹木 みんなタフですね。ニューヨークにいる人は。

『モリのいる場所』(© 2017 Mori, The Artists Habitat Production Committee)

 

★ インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12406481923.html

 

樹木希林(きき・きりん) 職業:女優
1961年に文学座入団。64年に森繁久彌主演のテレビドラマ『七人の孫』にレギュラー出演し、一躍人気を博す。74年に放送されたテレビドラマ『寺内貫太郎一家』で実年齢30代前半にして小林亜星が演じた貫太郎の母という老人役を演じたり、共演した郷ひろみとのデュエット曲もヒットしたホームドラマ『ムー一族』に出演するなど、お茶の間の人気者となる。篠田正浩監督の『はなれ瞽女おりん』(77年)や鈴木清順監督の『ピストルオペラ』(2001年)など日本の映画史に残る監督作品にも数多く出演。08年に紫綬褒章を受賞。『わが母の記』(12年)、『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』(07年)で第31回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞、14年には、旭日小綬章を受章。その他にも、『半落ち』(2004年)、『歩いても 歩いても』(08年)、『悪人』(10年)、『ツナグ』(12年)、『そして父になる』(2013年)など、数多くのヒット作や話題作に出演し国民的女優として活躍中。最新出演作『万引き家族』がパルムドール賞を受賞。

高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

(2018年9月15日号掲載)

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