リリー・フランキー

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「あ、楽しい」と思える一瞬のためにずっと苦しんでる

「ガチ!」BOUT. 240

 

リリー・フランキー

 

俳優、小説家、イラストレーター、エッセイスト、写真家、作詞・作曲家など、マルチな才能で活躍するリリー・フランキーさん。近年は、出演作がカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞などを授賞するなど、俳優としての活躍が目覚ましい。今回、主演・出演作品3本が7月、ニューヨークで行われた映画祭「JAPAN CUTS !~ジャパン・カッツ!」(ジャパン・ソサエティー開催)で上映された。多岐にわたる活躍について、お話を伺った。(聞き手・高橋克明)

 

主演作など3本がNY映画祭で上映

 

まずは「CUT ABOVE」賞、受賞おめでとうございます。

リリー 僕なんかが、何かをもらえると思って来てなかったんで…。前もって言ってもらえてたら、ネクタイくらいは締めて来たのにって思ったんですけど。

こちらに来られてから、受賞を知ったんですか。

リリー そう。僕は、普通に(出品作品を)見に来た感じで。なので…光栄だし…ありがたいですよね…。

はい……。そんなに思われてないですよね。(笑)

リリー じゃあ、日本に帰ったら(松田)龍平に威張りますよ「おまえ、もらえなかったらしいな」って。

(笑)。しかも今回は出演作品が3本もニューヨークで上映されます。出演作品を選ぶ際の基準はなんでしょう。

リリー もう、そこは明快ですよ。監督と脚本です。

では今回の「シェル・コレクター」も。

リリー 最初に脚本を読んで、原作を読んで、最後に監督の話を聞いて。「あ、へんな映画になるだろうな」って。でも、まぁ「企画(の段階)で終わるだろうな」とも思って。台本が手元に来ても、企画で終わるものって結構多いから。

でも、実際に撮ると聞いた際には…。

リリー もう、これはやりたいなって思いましたね。「すごいな、これを商業映画としてやるんだ!」って。

確かに普通の映画ではないですよね。

リリー そうですよね、会話的な部分も含めて…。でも、こういう映画が僕が若いころはもっといっぱいあったんですよ。それが、どんどんどんどん、商業作品ばかり増えていって、どんどんどんどん規制ばかりが増えていって。そんな中で、こういった自由な作品、乱暴に「カルト映画」って言われそうですけど、こんな作品は滅多に作られなくなった時代だからこそ、貴重だと思うんですよ。「そういえば、オレ、昔、こういう映画ばっか観てたよな」って。

今の日本映画界では、かなり挑発的な作品というか。

リリー うん、挑発的でありながら、その逆、懐かしくもある。「映画芸術」って言葉がまだあったころの「映画」が、今の時代に作られるって、いいなぁと思いますね。

その中で「盲目の貝類学者」を演じられます。役作りはかなり難しかったのではないでしょうか。

リリー まぁ、実際に今まで主人公が盲目の映画って世界中にあったわけで。(撮影前には)実際の盲目の方に所作など、お話を聞きに行ったんですけれど、でも、今回は(映画の)設定自体がね、盲目でかつ無人島に一人で住んでいるっていう荒唐無稽だったわけですよ。

はい。

リリー でも、だからこそ、ある程度のリアリティーはなきゃいけないだろうなって。目の見えない人って。こういうふうに(手の平から)触らないんですよね。手の甲から、こう触っていく。おっかないから。そういったリアリティーはないと、無人島で悠々自適に暮らしている感じだけになってしまう。かといって、リアルな盲人のリアリティーだけ持ち込むと(無人島での一人暮らしは)無理でしょ、ってことになる。そのあたりのさじ加減は考えましたね。

盲目でありながら無人島で一人暮らしができる…。想像しづらいですね。

リリー (主人公の学者は)盲人だからゆえの特殊能力がある人、ではないんです。やっぱり生まれながら目の見えない方と、途中から全盲になった人では全然違うっていうんですよ。生まれながら盲目の主婦の方は、子供育ててながら、天ぷら揚げれちゃう。昔見えていた人は、やっぱり顔が(見る方向に)向いちゃうんですよね。肉体の記憶がずっと残っていて。

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今回は、生まれながらの全盲の役でした。

リリー そう。だから、一番気をつけなきゃいけなかったのは、動いている人間をどうしても目で追ってしまうこと、なんですよね。なので、現場では自分の焦点をずっとぼやかしてました。

無意識にでも、眼球が(対象を)追わないように。

リリー うん。せっかくねー。寺島(しのぶ)さんが裸で俺の前を歩いてくれてるのに。(真顔)

はい。(笑)

リリー 乳首さえ、見れない。(真顔)

せっかく目の前にあるのに。(笑)

リリー 出来上がりを見て「うぉ! こんな乳首してんだ!」って。

僕なら確実に目で追いそうです。

リリー 確かに、あれは、撮影中、一番追いがちなポイントではありましたね…。(しみじみ)

今回の役は、撮影後のご自身に何か変化をもたらせましたか。

リリー この後は、他の作品で脳性の麻痺の役をやったんですよ。まだ公開されてないんですけれど。障害を持たれる方の役を立て続けにやらせていただくことによって、普段の生活でも「あ、ここはバリアフリーがあるんだ」とか、「この店は目の不自由な方は入りづらいな」とか、今まで気付かなかったことに気付くようになりましたね。

今回の作品、観客のニューヨーカーにはどこを感じてほしいでしょうか。

リリー この感覚的な作品で、ニューヨークの人が面白いと思わなかったら、どこの国でも面白いと言われないでしょうね(笑)。この文化的な街でこそ、評価されてほしいと思います。ここでこそね。

なるほど。リリーさんは、俳優、小説家、イラストレーター、エッセイストなどさまざまなジャンルで活動をされていらっしゃいます。それぞれにそれぞれがいい影響を与えているという印象がありますが。

リリー でもね……、最近、そこは、あんまり器用じゃないかもしれないな、と。例えば今回の「シェル・コレクター」もずっと渡嘉敷島に泊まりで、他の仕事もやらざるを得なかったんですけれど、なかなか、あれでしたね…。うん…これやりながら、イラスト書いたりするのは苦痛でしたね、やっぱり。

ひっぱられるというか。

リリー うん、なかなか簡単に切り替えられないですよ。気分は乗らないですよね。そのあたり、うまく切り替えられる人はいいなぁっていつも思います。自分の中では切り替わっているつもりなんですけど、端からはそうは見えないみたい。

それだけ役に入ってらっしゃった。

リリー 例えば、以前、舞台で3カ月間、オカマの役をやってた時は、舞台終わって、普通の生活に戻っても、ずっとオカマっぽいって言われてましたね。オレは全然、戻ってるつもりなんだけど。周囲には、しばらくオカマっぽいって。

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ある意味マルチな才能を持つ方の宿命だと思うのですが、ご自身ではどのお仕事の自分が、本当の「リリー・フランキー」なのでしょう。

リリー これが、また、どれをやってても楽しくないんですよね。

どれをやっていても楽しい、のかと思ってました!

リリー うーーん、絵を書いていても、文章書いていても、お芝居をしても、楽しいと思ったことないんです。

…意外……です。

リリー 一番したいことは、何もしないこと…なんですけど…。

(笑)

リリー やっぱり、こう、なんすかね。何かを楽しむって、なかなかなれないんですよね。苦しい方が勝っちゃう。「やべ、今日中にこれ書かなきゃいけないのか」とか「うわ、明日撮影だよ…」とか。でも、ある程度、そういう圧力はある方がいいんだと思います。楽しんじゃったら、もう止めどなく楽しみそうだし、オレ。

でも、書かれるし、撮影現場にも行かれます。

リリー やっぱりね、それは…一瞬、「あ、楽しい、今」って瞬間があるからだと思いますね。それこそ一瞬。もうホントに一瞬ですよ。

その一瞬のために、やる価値がある、と。

リリー そうですね。ピエール瀧と人を殺してる時とかは、本当に一瞬だけだけど、楽しくなってるんですよね。

映画「凶悪」の際、ですね。

リリー それは、楽しくならなきゃいけない感じなのかもしれないけど。でも、長く原稿とか書いてると「あ、いいものが書けた」って思えるのはほんの一瞬で、もうその後はずっと苦しい…。だから無責任な仕事に行きゃ行くほど楽しいですよ。無責任なトークショーとか、、みんなでオナニーについて話そうみたいなテーマだったら、ただ楽しい。でもね、いいものを作ろうと思ったら、苦しいもんですよ。

でも世間では「仕事は楽しみながらやるものだ」という風潮もありますよね、話題の自己啓発本とか。

リリー うーん、でも、オレは仕事をずっと楽しくやってる人とは仕事したくないですね。「もっと、苦しめよ、おまえ」って思うと思う。オレは1秒でも楽しい瞬間があるから、仕事を続けていける。

なるほど。最後にこの街についてお聞きしたいのですが、まず、今回の、ニューヨークは何回目でしょう。

リリー 3回目…かな。

お好きな街ですか。

リリー 好きですね。すごく好きかもしれない。どこに行っても歩かない僕が、ここだと、昨日なんか、マンハッタン半周くらいしました。

半周! 気付くとかなりの距離を歩いてしまう街だとはよく聞きます。

リリー そうなんですよねぇ。散歩してると(映画館で)「海街diary」や「バクマン」やってたり。普通に歩いてるだけで(世界中の)ポスターを見かけたりするニューヨークってやっぱりスゴいなぁって。

結構「日本」があふれてますよね。日本だけではないのでしょうけれど。

リリー ぼく、写メ撮って、ホント送りましたもん、是枝(裕和)監督にも、4姉妹(綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず)にも。

最後に、その街で暮らしている在ニューヨークの日本人にメッセージをいただけますでしょうか。

リリー あのね、昨日も「自己表現するためにこの街に来た」って若い人と話したんだけど。例えば、オレなんか俳優になりたいって思ったことないし、今でも自分が俳優だとは思ってもないんだけど、知らないうちにオレなんかに海外(の映画)のオファーが来て、で、語学の問題で断ってるオレがいるわけ。それを悔しいなって思うこと自体、20年前のオレには想像もできないじゃないですか。今、若い人がニューヨークに来て頑張ってるってことは、20年前のオレのそのつまずきを、もうクリアしているってことだと思うんですよ。うまくいかないことももちろん、ここから先、人生想像もできないことが起きた時、今、ここで生活をしていること自体が、自分では気付いてなくても、すでに将来的な素晴らしい表現の入り口に立っている可能性もあるわけですよね。それがすごく羨ましいなあって思います。

 

リリー・フランキー
1963年生まれ。福岡県出身。俳優、小説家、イラストレーター、エッセイスト、写真家、ミュージシャン、作詞・作曲家など多岐にわたる分野で活躍。自身初の長編小説『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』は、220万部を超える大ベストセラーとなり、2006年本屋大賞を受賞し、06年と07年にテレビドラマ化、同年に映画化される。俳優業では『ぐるりのこと。』に出演し、第51回ブルーリボン賞新人賞を受賞。第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した映画『そして父になる』では、子供を取り違えられたもう1組の夫婦の夫役を好演し、国際的に知名度が上がり、第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞や第87回キネマ旬報ベスト・テン・助演男優賞など数々の賞を受賞。
公式サイト:www.lilyfranky.com

〈作品紹介〉『シェル・コレクター』

『シェル・コレクター』(© 2016 Shell Collector, LLC (USA) and Shell Collector Japan Film Partners)

『シェル・コレクター』(© 2016 Shell Collector, LLC (USA) and Shell Collector Japan Film Partners)

ピュリッツァー賞受賞の米国人作家・アンソニー・ドーアの同名短編小説を映画化。貝類学の世界で成功を収めた盲目の学者(リリー・フランキー)は、妻子と離れて沖縄の孤島で貝を収集しながら一人静かに暮らしていた。そんなある日、奇病を患った女性画家いづみ(寺島しのぶ)が島に流れ着く。いづみの奇病を偶然にも学者が見つけた新種のイモガイの毒によって治癒してしまう。それを知った人々は、貝毒による治療法を求めて島に押し寄せ、やがて学者の日常は狂い始めていく。監督・坪田義史、出演・リリー・フランキー 寺島しのぶ 池松壮亮 橋本愛ほか。(日本公開:2016年2月27日)

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2016年8月20日号掲載)

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