斎藤工 監督作が上映されたことで、初めてNYという街とつながれた

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斎藤工

「ガチ!」BOUT. 263
俳優 斎藤 工に聞く

出演作『ラーメン・テー』など3作
NYの日本映画祭で上映

俳優、映画監督、プロデューサーとして活躍する斎藤工さん。主演するシンガポール、日本、フランスの合作による映画「ラーメン・テー」が北米最大の日本映画祭「ジャパン・カッツ!」のオープニング作品に選出され、7月中旬、ニューヨークを訪れた。映画祭では出演作3作が上映されるなど、注目度が高い斎藤さんにお話を伺った。 (聞き手・高橋克明)

今回3本の出演作品が上映されます。しかもそれらは全て偶然なので、いかに、今の日本映画界で注目作品に出演され続けているのかわかります。

斎藤 恐縮です。ただ、今までも「ジャパン・カッツ!」では、(2016年に)自分のターニングポイントとなった「団地」という阪本順治監督の作品や、「無伴奏」という矢崎仁司監督の作品を上映してくださっていたので、この映画祭自体にとても興味がありましたし、今回、こうやって参加させて頂いたのはとても光栄で、うれしいです。

3本の中には、自身初の長編監督作品「blank13」もラインアップされています。既に短編では6本も監督されているので、作品自体の長さでは特別な感慨はないですか。

斎藤 何を基準に長編とするのかを調べたら、多くの映画祭は70分以上の映像作品のことを長編と呼ぶらしいんです。じゃあ、今、撮影している作品を70分以上にしたら長編映画としてエントリーできるんじゃないかと、当時は思っていました。だからといってどこかで濃度を薄めて70分にするわけではなく、撮影した素材をどう編集すれば70分以上という条件をクリアできるかという試行錯誤はしました。

「ジャパン・カッツ!」のオープニングで「ラーメン・テー」のエリック・クー監督(左から2人目)と登壇した斎藤工さん(右端)=ジャパン・ソサエティー(Japan Society ©Daphne Youree)

「ジャパン・カッツ!」のオープニングで「ラーメン・テー」のエリック・クー監督(左から2人目)と登壇した斎藤工さん(右端)=ジャパン・ソサエティー(Japan Society ©Daphne Youree)

この作品を通じて伝えたかったことはなんでしょう。

斎藤 (原作者の)はしもとこうじさんから、ご自身のお父さんの話を聞いた時から、他人事ではない感じでした。自分以外の他人のことを僕たちは一つの側面で見がちになると思うんですけれど、当たり前ですが、人は一つの面だけではなくて…。多角的にいろんな面を持っていて、人毎に自分はこの側面で、この看板を掲げて、コミュニケーションとろうとする。それは家族であっても、そうなってしまう。本当は、その人にしか見えない角度がそれぞれの人の数だけあるはずなんですよね。ついつい、僕も「この人はこういう人」と、ジャンル分けしがちになるけれど、それって間違いなんじゃないかと思っています。

なるほど。

斎藤 それは自分自身もそうだからなんです。1色ではないし。そんなことをはしもとさんの話を聞きながら思ったんです。なので、観てくださる方には、自分と近しい人間をいつもどう見ているか、一面だけで見ていないか、自分も含めて見つめ直すような、そんなことを感じてもらえたらうれしいです。あとは、実話を映画化するということは、はしもとさんご本人にするとすごくリスキーなことだと思うんです。なので、はしもとさんといろいろ話を重ねて、その中で、彼が「亡くなった父親のことだけど、この作品に触れることで、見た方が、大事な家族だったり、大切な人に連絡してくれたりするきっかけになったら、父も浮かばれる」と仰ってくださったので、その責務は全うしないといけないと思いながら作りました。

<strong>〈インタビュアー〉</strong> <strong>高橋克明(たかはし・よしあき)</strong> 専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(<a href="https://nybiz.nyc/gachi" target="_blank" rel="noopener noreferrer">nybiz.nyc/gachi</a>)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「<a href="http://www.mag2.com/m/0001647814.html" target="_blank" rel="noopener noreferrer">NEW YORK摩天楼便り</a>」絶賛連載中。

先ほどの「人は見えている一面だけではない」という話は奇しくも、監督をされた斎藤さんご自身にもよく言われることだと思うんです。いわゆる「セクシーなイケメン人気俳優」という看板はどうしたってついて回る。監督業においては邪魔になることもあるのではないかと思います。

斎藤 確かにマイナスになることはあります。でも海外だと、俳優がクリエーティブなことをするのは、至極当然のことです。世界だと当たり前でも、日本だとまだバイアスが掛かるというか…。そこは少し日本の映画界に時代遅れ感を感じてしまいますね。

僕自身もアメリカが長いので、斎藤さんのイメージは「人気俳優」でした。それが作品を見せてもらって「こんなに感情を揺さぶられる作品を撮るんだ!」と驚いたのが正直なところでした。観るまでは、色眼鏡で見ていたのかもしれません。

斎藤 でも、それが悪いことだけではないんです。俳優の延長(での監督業)はキャスティングとかで、めちゃくちゃ生かせることもあるんです。諸先輩方にお声掛けさせて頂いたり。そういった意味では俳優としてのメリットも使いつつ、純粋に作品として本物に向けて作るという、両極端のことを、都合良くしたたかにやろう、とは思いました。やっぱり僕は作品至上主義なので、色眼鏡で見られたとしても、それを逆に僕のエネルギーにしようと。「どうせこう思われていますよね」みたいなことを、逆に励みにしよう、と。

観客を見返してやろう、と。

斎藤 そう思いました。それに、そもそも日本国内の方に限定した作品を撮ろうとも思ってなくて。海外の映画祭も多分20カ国近くの映画祭に出させてもらっているんですけど、そのどこも、たぶん僕を、もしかしたら高橋一生さんの存在すら知らないような人たちが見てくださっています。そこで初めてこの作品の評価が得られるし、そもそも本来そうあるべきだとは思っています。作品というのは、予備知識の延長にあるものじゃなくて、本当にフラットな状態で、どう評価されるかだと思うんです。僕が映画を見る時も実際そうですし。そういった展開で評価されて、最終的に日本に戻って来られたらいいなと思います。

今回は、まさしくその流れで日本でも劇場公開にたどり着きました。

斎藤 理想の流れではありました。

日本ほどは斎藤さんの知名度のない海外で、純粋な作品として好評価された。

斎藤 そうですね。次回作がHBOアジアのホラー「Folklore」というアジア6カ国で作る作品なんですが、これも「blank13」を見てくださったHBOの方から「日本のパート、50分弱を撮ってほしい」という連絡を頂いて。彼らは僕が何者かを知らずに、純粋に作品「blank13」を見て、ディレクターとしてのオファーをしてくださったので。その展開が、僕にとっては、もう、答えだなとは思っています。

さまざまな世界の映画祭に出展されていますが、日本と比べて、観客の反応はいかがですか。

斎藤 エンターテインメントの捉え方が、歴史としてやっぱり深いなと思う国は、多くあります。リアクションがうまいというか。国によっては、映画の楽しみ方を、既に分かってくださっている人たちは多いです。日本だと「あれ。ここ笑っていいのかな」みたいな、ちょっと周りの様子を伺っている気はしますね。調和を尊重する方が多い。海外の映画祭だと、面白かったらもう、自分一人だけでも笑ってくださるお客さんもいる。そういう方たちが劇場の空間を引っ張ってくれているような気がします。先導してくれているのは作品自身じゃなくて、そういうお客さんである場合も多い。

嫌だったりしますか。

斎藤 いえ、すごい頼もしい(笑)。シンガポールのお客さんなんて、本当にビビッドに反応してくださる。前回も最高のリアクションしてくださって、後半のシーンでは、僕も並びで、椅子が取れるんじゃないかぐらい笑ってくれて。日本では絶対ないかもしれないですね。でも映画を作るということは、自分の思うナショナリズムをスクリーンで表現して、その作品が世界を旅して、それを見た世界の人々が日本の一つのリアリティーを何か感じてもらえるものだとは思うんですよ。

外国を知る最強の教科書ではありますよね。

斎藤 作って良かったなと単純に思う時は、文化圏の違う人に見えない何かがちゃんと届いたと認識した時です。その手応えを感じられた時は、これはもう最大の喜びです。これは俳優であれ監督であれ、海を越えて自分たちが信じて作ったものが、見てくれた人のハートに届いた瞬間ってやっぱり分かるんです。それがこの職業の最大の喜びだなと、今「blank13」の映画祭行脚で味わっています。

なるほど。最後にニューヨークという街の印象を聞かせてください。

斎藤 今回で来るのは5回目くらいですかね。好きな街です。世界中のエンターテインメントが集合しているし、ある種、すごい厳しさを持っている街なので。特に、今回は観光ではなく、このニューヨークという街の特別なエネルギーの中で生活している方たちに、自分が監督した作品を観ていただくために来たので。それは初めての経験なので、ぜひ、厳しく観ていただきたいなと思っています。そういった意味では、今回、初めて本当の意味で「ニューヨーク」とつながれたんじゃないかなと思っています。

斎藤工

 

★ インタビューの舞台裏 → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12395478200.html

 

斎藤 工(さいとう・たくみ)
職業:俳優、映画監督、プロデューサー

移動映画館プロジェクト「cinéma bird」主宰。監督作「blank13」(2018)が国内外の映画祭で7冠獲得。アジア各国の監督6人を迎えて制作されたHBOアジアドラマ「Folklore」に参加。2019年には企画・プロデュース・主演を務める「万力」が公開予定。

北米最大・日本映画祭
第12回 『JAPAN CUTS ~ジャパン・カッツ!』
斎藤工出演、上映作品

『ラーメン・テー』 Ramen Shop─北米初公開─
2018年7月19日 木曜日 午後7時

シンガポールのソウルフードのひとつである骨付き豚肉などを煮込んだ肉骨茶(バクテー)と日本のラーメンを軸に、シンガポールと日本を繋ぐ家族の姿を描いた物語。高崎市のラーメン店で働く真人(斎藤工)は急死した父の遺品から幼いころに亡くなったシンガポール人の母の写真を見つける。両親が歩んできた道を辿るべく、真人はシンガポールへと旅立つ…。世界三大映画祭への招待経験もあり、シンガポールを代表する映画監督エリック・クーによるシンガポール・日本・フランスの共同製作。第68回ベルリン国際映画祭キュリナリー・シネマ(料理に関する作品)部門正式招待作品。
2018年|89分|DCP| 監督・エリック・クー|出演・斎藤工 松田聖子 マーク・リー ジャネット・アウ、伊原剛志 別所哲也

『blank13』─ニューヨーク初公開─
2018年7月20日 金曜日 午後9時15分

実話を基にした、俳優・斎藤工が「齊藤工」名義で臨んだ初長編監督作品。13年前に失踪した父(リリー・フランキー)が余命3カ月で見つかった。借金を残していった父に会おうともしない母(神野三鈴)と兄(斎藤工)。しかし、優しかった父の思い出が忘れられないコウジ(高橋一生)だけは入院先を訪れる。家族との溝が埋まらないまま、父はしばらくしてこの世を去ってしまう。葬儀の参列者から聞いた父のエピソードにより今までコウジの知らなかった父の姿が浮かび上がってくる。父との空白の13年間は埋まっていくのか─。日本国内外の映画祭で上映され、上海国際映画祭ではアジア新人賞部門で最優秀監督賞、ウラジオストク国際映画祭では最優秀男優賞をトリプル受賞(高橋一生、斎藤工、リリー・フランキー )するなど賞を獲得する。
2018年|70分|DCP| 監督・齊藤工|出演・高橋一生 松岡茉優 斎藤工 リリー・フランキー

『去年の冬、きみと別れ』 Last Winter, We Parted─北米初公開─
2018年7月21日 土曜日 午後5時

芥川賞作家・中村文則のサスペンス小説を岩田剛典主演で映画化。野心に燃えるルポライターの耶雲恭介(岩田剛典)は婚約者・百合子(山本美月)との結婚を間近に控え、スクープを狙うべく猟奇殺人事件の容疑者で天才写真家・木原坂雄大(斎藤工)に狙いを定めていた。かつて木原坂には、盲目の美女モデルが焼死した不可解な事件の容疑者として逮捕されたが、事故扱いとなり釈放されたという過去があった。事件か事故か─。耶雲は木原坂の真実を暴く本を出版すべく接近するが、気づかぬうちに木原坂の罠にハマっていってしまう…。映像化は不可能と言われた原作を、大胆な構成で描く。
2018年|118分|DCP| 監督・瀧本智行|出演・岩田剛典 斎藤工 山本美月 北村一輝 浅見れいな

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

(2018年8月11日号掲載)

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