いい意味で何も変わらず精進したい
「 ガチ!」 BOUT. 213
数々の日本の映画やドラマに出演し、今最も注目されている俳優の一人、染谷将太さん。主演した「さよなら歌舞伎町」の演技が評価され、「第14回ニューヨーク・アジア映画祭」で今後の活躍が期待される若手俳優に贈られる「ライジング・スター・アワード」を受賞。その授賞式に来米した。同作品は昨年、第39回トロント国際映画祭ワールドプレミアでも賞賛され、第19回釜山国際映画祭「アジア映画の窓」部門にも出品された話題作。今回、廣木隆一監督とともに映画製作の裏話や作品にかける思いなどを伺った。(聞き手・高橋克明)
主演映画「さよなら歌舞伎町」が「ニューヨーク・アジア映画祭」でライジング・スター・アワード受賞
まず今回の作品を撮るにあたっての経緯を監督にお聞きしたいのですが。
廣木監督 まず、ラブホテルの清掃をしている人のルポがあって、そこからインスパイアされた脚本があって、それが僕のとこに来たっていうことです。で、僕が興味持ったのは群像劇ってとこですねー。(群像劇は)初めてで、やりたいなっていう。あとは今、オリンピックに向けて東京がどんどん変わっていく中、その中でも変わっていく新宿って街を(作品として)残せればいいなっていうのが一番大きいですね。
染谷さんが出演を決めた理由はなんでしょう。
染谷 廣木監督と(脚本家の)荒井(晴彦)さんの手掛ける歌舞伎町を舞台にしたピンク映画って、このご時世、これで最後なのかなって思って。最初はもっと暗い話なのかなって思ってたんですけど、台本を読んだ際に、すごく…なんていうんですかね、愛情あふれる話になってて…うん、それが意外でしたね。完成した作品を見ても、愛情あふれた作品になってて、本当に出(演し)て良かったなと思いました。
ラブホテルの従業員というかつてないジャンルの役でしたが、役作りにはどうやってアプローチされたのでしょう。
染谷 あの〜、すごく短期間で撮影したんですよ。2週間かな。しかもロケーションもずーっとラブホテルじゃないですか。で、自分の出番がない時はなるべく(実際のホテル)従業員と話しましたね。おかげで、役作りじゃないけど、その場の雰囲気に自然と解け込めて、生活のリズムをその空間にうまく合わせられることはできたかなとは思いますね。現場の空気に違和感なく入れたというか。
演じられた主役の「徹」にはどういった印象を持たれていますか。
染谷 すごく男の子らしい、と思いましたね。強がったり、さまざまな不安定な弱さもあったり、でも基本的に熱いブレない何かを持っている印象がありました。一人の男の子として魅力的だなぁって思いました。で、撮影中も(ホテルは)営業してたんですけど、(実際の)お客さんが入ってきて、本当の従業員と勘違いされて。(笑)
(笑)。されて…?
染谷 対応しました(笑)。従業員のように。普通に。(笑)
今回は共演があの元AKB48の前田敦子さんということで話題にもなりました。劇中ではかなり思いっきりビンタもされてましたが…。
染谷 痛かったです(笑)。前田さんは、とっても地に足がついてる方っていうのかな、ブレてないというか、芯の強い方でしたね。あとは何をしてくるかも分からない方だったので、すごくやってて楽しかったですね。こう、何をしてくるか分からないと、僕も何をするか(自分で)分からないんで(笑)。お芝居してて楽しかったです。
監督は海外での上映会の経験も非常に多いですが、海外の観客の反応はいかがでしたか。
監督 いやー、海外でも、みんな結構、笑って観てもらえてるんで、すごく良かったなーと思ってます。ホッとしてます(笑)。(海外の人にも)ちゃんと笑える映画になってるんだなって。
舞台となっているラブホテル、という文化は日本独特のモノですので、そこに新鮮さを感じる観客も多かったかもしれないですね。
監督 そうでしょうねー。だから、その空間で、大の大人がセックスしながらバカなことしてるなーってとこが面白いんでしょうね。(ラブホテルって)子供に返るというか、自分をさらけ出せる場所でもあると思うんです。なので、特別セックスに焦点を当ててるんじゃなくて、ラブホテルの日常を描いたってことですね。で、ラブホテルにはセックスがついて回る。ラブホテルの中でセックスしないカップルばっか描いてもリアルじゃないしね。
劇中ではセックスシーンと同じくらい食事のシーンも出てきました。二つの関係性を意識されての演出でしょうか。
監督 僕ね、食べるシーンとセックスシーンが好きなんですよ。(笑)
染谷 多いですね。(笑)
監督 だよね(笑)。多いんですよ、確かに。この人たちはいつもどんなものを食べてるのかっていうのをスタッフみんなで考えて。そこに、それぞれの何か雰囲気みたいなものが分かってもらえたらいいなって気はするんですよ。で、次に、この人たちはどういうセックスをするんだろうって考えると楽しくなってくるんです(笑)。いつも、何か食べてるか、セックスしてるか(笑)…。(聞こえるか聞こえないかの小さな声で)俺がそんな感じの生活なのかな…。
(笑)。最後にニューヨークという街の印象を聞かせてください。
監督 街を歩いただけで、なんて言うんだろう。うーん…とにかく元気ですよね。息をしてる。何か、いつも、元気だなーって。俺が疲れてるだけかな(笑)。やっぱり面白いですよね、いろいろお芝居もあるし、文化的なこともいっぱいあるし。
染谷 自分も、“散らばってなくて”いいなと思いましたね。大きい街だけれども、なんだろ、ちゃんと整頓されていてカルチャーも整備されているっていうか。スゴいいいなーって思いました。
今回、ライジング・スター・アワード受賞も、おめでとうございました。
染谷 この仕事をして形ある評価をいただけるっていうのは、自分にとって本当に喜ばしいことで、それがまた海外でいただけたので、特にうれしいですね。でも…いい意味で何も変わらずこれからも精進していきたいと思っています。
★インタビューの舞台裏★ → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12059778873.html
染谷将太(そめたに・しょうた) 職業:俳優
1992年9月3日生まれ、東京都出身。2001年、9歳の時に映画「STACY」でデビュー。09年、映画「パンドラの匣」で長編映画初主演を果たす。子役時代より多くの映画、ドラマに出演し、11年9月、映画「ヒミズ」で第68回ベネチア国際映画祭で日本人初となる新人俳優賞を受賞。12年、「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」で、第66回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞を受賞。13年、「ヒミズ」「悪の教典」で第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。15年1月1日に女優の菊地凛子との結婚を発表。「さよなら歌舞伎町」で、第14回ニューヨーク・アジア映画祭でライジング・スター・アワードを受賞した。
作品紹介
「さよなら歌舞伎町」
「ヴァイブレータ」「やわらかい生活」と男女の心のひだを捉え衝撃を与えた監督・廣木隆一と脚本家・荒井晴彦のコンビが三度目のタッグを組み、歌舞伎町にあるラブホテルを舞台に身も心もむき出しになる男女を描いた群像劇。一流のホテルマンになれず今ではラブホテルに店長として勤めている青年を、「ヒミズ」で第68回ベネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した染谷将太が、青年の恋人で有名ミュージシャンになろうともがく女性を、「もらとりあむタマ子」など話題作に出演する前田敦子が演じる。同棲中の二人は倦怠期のただなかにいる。(制作:2014年、配給:東京テアトル、135分、日本公開:2015年1月24日)
〈監督紹介〉
廣木隆一(ひろき・りゅういち) 1954年生まれ。82年「性虐!女を暴く」で映画監督デビュー後、日活ロマンポルノ映画を手掛ける。2003年には、「ヴァイブレータ」で第25回ヨコハマ映画祭の監督賞など数多くの賞を受賞。その後も興収30億円を超える大ヒットとなった「余命1ヶ月の花嫁」や「きいろいゾウ」「100回泣くこと」など数々のヒット作品を撮り続け、現在も精力的に活動中。
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2015年7月18日号掲載)