【インタビュー】鈴木亮平

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鈴木亮平 ©NYAFF ©Gavin Li

BOUT. 316

俳優 鈴木亮平に聞く

リハーサルの時点で、これはいい作品になる!と

ニューヨーク・アジアン映画祭でライジングスター・アジア賞受賞

7月中旬、日本映画『エゴイスト』がニューヨーク・アジアン映画祭(NYAFF)に招待されたことで、主演の鈴木亮平さんと松永大司監督がニューヨークを訪れた。鈴木さんは、同映画祭の目玉、ライジングスター・アジア賞を受賞し、大いに話題となった。授賞式前、鈴木さんが本作に出演を決めた思いや、松永監督にLGBTQ+を題材にする上での本作の取り組みなどについて、お話を伺った。 (聞き手・高橋克明)

NYAFFでライジングスター・アジア賞受賞の模様。(左から)鈴木亮平さん、松永大司監督=7月15日、ニューヨーク(©NYAFF ©Rom Choi)

NYAFFでライジングスター・アジア賞受賞の模様。(左から)鈴木亮平さん、松永大司監督=7月15日、ニューヨーク

まずはライジングスター・アジア賞受賞、おめでとうございます。

鈴木亮平 ありがとうございます。率直にうれしいですね。アジア映画の存在感が、近年増している中で、この賞を頂けたことは自分もそのパワーの中の一つになれたようで、とてもうれしいです。上質なものが好きな人が集まるこのニューヨークという街で、評価されたことは素晴らしいと思います。

今作はLGBTQ+をテーマにした作品です。海外に比べると日本の映画界ではまだまだ少ない題材ですが、製作のきっかけは。

松永監督 プロデューサーの明石(直弓)さんから原作をいただいて。今、おっしゃられたように、LGBTQ+のテーマではあるんですけども、それ以上に、(主人公の)亮平演じる浩輔から「僕は愛がなんだか分かりません」というセリフを言われた阿川(佐和子)さん演じた妙子が「あなたが分からなくてもいいんです。それを受け取った私たちがそれを愛だと思ってればそれでいいんじゃないんですか」っていうセリフが後半にあるんですけども、それを読んだときに、もう、僕はこれを絶対映画にしたいと思いました。そのセリフが、今回、オファーを受けた一番大きな理由です。

鈴木亮平 ゲイである主人公の役を当事者ではない僕がやっていいのだろうかという迷いはありました。そこで日本でゲイと公言して活動している俳優に誰がいるだろうと調べてみたんです。僕の調べた限り、3年前当時ですが、日本国内でゲイを公言している俳優はゼロでした。そこで、ハリウッドも過去にはそうだったように、まずはヘテロセクシュアル(異性に対して性的な感情を抱くセクシュアリティー)の俳優であってもホモセクシュアルの役を責任を持って演じることで、社会と業界を次の段階に進めていけるのではないかと思いました。

次の段階とは、人種的マイノリティーや性的マイノリティーの人々が、公正に描かれる世界、ということですか。

鈴木亮平 そう。ただ、それをやるにはやっぱり僕は100%責任を持ってないといけないし、きちんと勉強していくべきだし、LGBTQ+の、特にゲイコミュニティーの期待を裏切るような作品にしては絶対いけないし、彼らが作品を見たときに「自分たちの話だ」って共感してもらうように絶対しなきゃいけない、と思いました。

作品を拝見して、彼らにこそ見てもらいたいと思いました。

鈴木亮平 総合的な監修としてLGBTQ+インクルーシブディレクターの方に入っていただけたり、ラブシーンの監修としてゲイのインティマシーコレオグラファーの方に入っていただけたり、そういう環境を全て整えてくださったので。

旧知の仲で、お二人ともこのニューヨークという街にそれぞれ特別な感情があるとお聞きしました。今回、お二人でこの街に招待され、この街の映画祭で受賞。感慨深いものがあるのではないでしょうか。

松永監督 新人の頃から…というかその前から…。

鈴木亮平 生まれる前から…生まれる前からと言いますか…(笑)。(役者になる前の)バイトしてる時からなので(笑)。そりゃあ、感慨深いですよね。

松永監督 言葉にならないですね。本当にうれしいです。(受賞した鈴木さんに向かって)おめでとうございます(と拍手)。アルバイト先が一緒だった時、お互い「いつか監督になりたい」「いつか役者になりたい」って話してて、そこから20年近く経って、今回初めて一緒に仕事することになり、何かメッセージを送ろうと思ったんですよ、クランクイン前日に。いよいよだね、って感じのことを…でも、これから撮影が始まる大変な時期なのに、あんまり、そういうこと書かない方がいいかなと思って、ぐっとこらえて、初日を迎えました。(笑)

鈴木亮平 たしかに(撮影)現場ではそんな感慨に耽(ふけ)る余裕はなかったっすよ。(笑)

松永監督 でも、初日のファーストシーンの撮影の時に、みんなが準備してたら亮平がやってきて「あの頃のこと覚えてますか」って。俺たちやりましたねって…うれしいけど、これからすごい大変な撮影で、よくそんなセンチメンタルなこと言ってられるなと思って。(笑)

鈴木亮平 多分、僕、すごく面倒くさい俳優だと思うんですよ。例えば、脚本上がってきた時にも電話して「ちょっとこの脚本だとできないです」とか、いろんな注文をしたりして…。

松永監督 (割って入ってきて)だから、僕からすると、そんな亮平がわざわざ連絡してきてくれて…。

鈴木亮平 僕まだしゃべってるんですけど。

(爆笑)

松永監督 あ、ごめん、ごめん。

鈴木亮平 あんまりにも(脚本が)シンプルすぎて、小説に書かれていたエッセンスや温かみみたいものが、なくなってて、何が起こったかしか書かれてなかった。僕は「これじゃできない」って監督に連絡した時に「分かる。でも俺はこのスタイルしかできない。リハーサルに来て、リハーサルで生きたシーンを一緒に作り上げていきたい!」って言われて……ちょっと何言ってんのか、よく分かんなかったんですけど…。(笑)

いや、分かりますよ!(笑)

松永監督 でも、ホントに「よく分かんない」って言ってきて。(笑)

鈴木亮平 (笑)。監督の作り方は、台本にないシーンをいきなりリハーサルでやる感じで。全然、台本にないシーンでも、例えば(相手役と)いきなり二人っきりになるような設定で。

松永監督 でも、亮平のすごいところは、常に“浩輔〟でい続けてくれたんです。今回、リハーサルの時からカメラが入ってます。だから僕はモニターで見ながら、浩輔の顔を見た時に、シナリオには無いけどもこのシーンはもう絶対撮ろうと思って。で、リハーサルが終わった時に亮平が「いや、もう、こんなことが起こるとは思わなかったです」って。でも、そのシーンの亮平がすごいいい顔で。

鈴木亮平 僕自身、結構インプロ(即興)が好きなので、リハーサルに行った時に、これは面白くなるかもしれない、と感じました。

この街の印象は…。
(2人同時に) 大好きですよ!

 

◾️映画『エゴイスト』あらすじ
原作は数々の名コラムを世に送り出してきた高山真の自伝的小説『エゴイスト』。松永大司監督が、ドキュメンタリータッチの映像で、登場人物たちの間に流れる親密な温度感や、愛ゆえに生まれる葛藤を繊細に伝える。
主人公の浩輔を演じるのはストイックさと深い洞察力で数々のキャラクターに命を吹き込んできた鈴木亮平。本作では強さともろさを同居させた生々しい演技で新たな境地を開拓した。浩輔の恋人である龍太役には話題作への出演が続く宮沢氷魚。その透明感あふれる儚(はかな)い佇まいが愛を注がれる純粋な青年というキャラクターに説得力を与えている。また、龍太の母、妙子役の阿川佐和子は、主人公の人生観に影響を与えるキーパーソンともういうべき人物をナチュラルかつ圧倒的な存在感で演じている。全ての人に愛を問い掛ける感動のヒューマンドラマは、公開に先立って行われた東京国際映画祭でも高い評価を得た。

NYAFFに招待された(左から)松永大司監督、鈴木亮平さん=同(©NYAFF ©Gavin Li)

NYAFFに招待された(左から)松永大司監督、鈴木亮平さん=同

鈴木亮平(すずき・りょうへい) 職業:俳優
1983年3月29日生まれ。兵庫県出身。2006年俳優デビュー。07年『椿三十郎』にて映画初出演。その後『HK/変態仮面』(13)などに出演。14年にはNHK連続テレビ小説「花子とアン」にてヒロインの夫役を演じ、15年に公開された映画『俺物語!!』では、型破りな高校生の主人公役を演じた。18年NHK大河ドラマ「西郷どん」で主人公の西郷隆盛を演じる。映画『孤狼の血LEVEL2』(21)では第45回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめ、第46回報知映画賞 助演男優賞、第95回キネマ旬報ベスト·テン 助演男優賞など多くの賞を受賞する。
Twitter:@ ryoheiheisuzuki

松永大司(まつなが・だいし)監督 監督・脚本
1974年7月3日生まれ。友人であったトランスジェンダーの現代アーティスト・ピュ~ぴるを8年間追ったドキュメンタリー映画『ピュ~ぴる』(2011)で監督デビュー。同作は第40回ロッテルダム国際映画祭、第11回全州国際映画祭など数々の映画祭から正式招待され絶賛された。15年には初の長編劇映画作品『トイレのピエタ』(出演:野田洋次郎、杉咲花)が公開。本作にて、第20回新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭森田芳光メモリアル新人監督賞などを受賞。18年、国際交流基金×東京国際映画祭による「アジア三面鏡」企画第2弾に、アジア気鋭の監督の1人として参加、『碧朱』が東京国際映画祭にて上映された。

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〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、1000人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

(2023年8月5日号掲載)

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