BOUT. 291
映画監督 塚本晋也に聞く
NY映画祭で「CUT ABOVE」受賞2作品上映
監督・俳優・脚本家などマルチに活躍する塚本晋也監督。今夏、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催された日本映画祭「JAPAN CUTS~ジャパン・カッツ~」で、日本映画界に貢献をしている監督や俳優の功績をたたえる「CUT ABOVE(カット・アバブ)」賞を受賞した。作品に対する思いや、映画製作についてお話を伺った。(聞き手・高橋克明)
監督の作品は大好きで、全て観させていただいているのですが、どれも見終わったあと、ハッピーな気分にさせてくれないというか…。
塚本 あはは、そうですか。
いい意味で、嫌な終わり方も多いような気がして…。意図的にハッピーエンドを避けてらっしゃるのかなと。
塚本 あえて避けるということはないんですけれど、でも確かに今回の『斬、』も、『野火』も、淡々とは終わってますよね。でも、今までの自分の映画は…あぁ……そっか、やっぱりハッピーエンドじゃないですね(笑)。終わった後にすごく重〜い、やるせな〜い、嫌な気持ちになるような感じですね。
でも、いつまでも記憶に残る作品ばかりです。
塚本 確かに楽観的な感じで終わる作品はほとんどないですけれど、考えようによってはハッピーエンドと言えるんじゃないかなとは思っているんですね。結局、ここ2作は、今の日本のこの先を相当憂えているというのがテーマなので…うん、やっぱり楽観的にはなれないですよね。
以前、雑誌のインタビューか何かで『トップガン』は観る気になれないともおっしゃっていました。
塚本 いや、否定的に言ったのではなくて、本当に観ていないので批評する資格もないと思っただけでなのですが、ただ、戦闘シーンを雄々しく、りりしく描いている映画だとするなら、あまり興味は持てないかもしれないですね。『トップガン』がそうなのかは観ていないので分からないのですが、「戦争」をカッコ良く描かれても、小学生や中学生くらいの時には熱狂できたけど、年を取るにつれて、今はどうしても、そこにヒロイズムは見出せない…かな。
なるほど。今回の『斬、』も戦闘シーンはこれ以上なく残酷でした。派手に首がちょん切られるなら逆になんも思わなくとも、手首など、少しだけ斬られるシーンはリアルに「痛さ」が伝わってきて…
塚本 様式美的な時代劇にだけはするつもりはなかったので。美しい舞のような振り付けでバンバン斬っていくと、だんだん無感覚になっちゃうんですよ。人間、刃物で斬られるとむちゃくちゃ痛いんだよっていうことを伝えないと(意味がない)。日常生活でも、間違えてカッターや包丁でちょっと手を切ってしまうだけですっごく痛いですよね。その「イテテテ」という実感を(最初に)少し、思い出してもら(う映像を見てもら)ってから、少しずつその傷を大きくして、最後にめちゃくちゃ痛い、という感じを出せないかなと思って。
十二分に痛かったです(笑)。特に刀と刀がぶつかる、あの金属と金属が擦れる音がリアルで、その音が積み重なるにつれ、登場人物がどんどん人ではなくなっていく感じも伝わってきました。監督の作品はある出来事がきっかけに、人が人でなくなっていく、その境界線を越えて違うものになっていく、そんな世界を描いているようにも見えます。
塚本 意識しなくても、自然とそうなっていく感覚ですかね。まずそこに日常があって、その日常に疑問を投げ掛ける強い何か、人なのか、事件なのか、が出てくる。そこでものすごく葛藤するけれども、簡単にはそれを打ち負かせない。合体しちゃうのか、共存しちゃうのか、良い魂か悪い魂か分からないんだけれど、でもまた生きていく。実は(僕の作品で)主人公が死ぬことはあまりないんですね。最初の自分にはもう帰れない自分になって、また生きていく、生きていかなきゃいけない、そういう話を作りたいんでしょうね。
今作も、その「日常に疑問を投げ掛ける強い何か」の役を監督自身が演じられていました。役者に演出される際と、ご自身が演じる際、どちらが楽しいですか。
塚本 うーん…両方とも同じ、ですね。両方とも楽しいし、両方とも、ちょっとムキになってやってる感じ。ああ楽しい、と思って撮ってるかどうかは分かんないですね。最初に妄想してる時が一番、楽しいんですよ。でも、あとはムキになってるばっかりです(笑)。でも、まあ大きな目で見ると楽しいんだとは思うんですけれども。作るのも演じるのも撮影するのも、みんな一緒って感じですね。全部合わせて映画作りなので。あまり分離して考えてはいないかもしれないです。
監督の作品は日本以上に世界の方が評価が高いです。ご自身でその理由をどう分析されていらっしゃいますか。
塚本 どうしてかなって考えることはありますね。なんと言えばいいか…多分、「個」という小さな世界(観)を強い気持ちで作っているから、外国の方に突き刺さるのかもしれないですね。やっぱり強い個人の思いで作った方がユニークなモノができると思うんですよ。その塊が、いろんな国の人の心に刺さっていくという感触。あまりうまく説明できないんですけれども、皆さん、面白いものとか、ユニークなものを、一生懸命探してるんじゃないのかな。そのうちの一つなのかなと思ってます。
大型バジェットの作品だと多くの人が関わるので、監督個人の意思がそのまま反映しにくいということでしょうか。
塚本 それはあるかもしれないですね。でも、大きな作品でも決して誰かに、こうしろ、ああしろと命じられるわけじゃないんですよ。ただ僕の中に忖度(そんたく)があって、多くの人に見せる場合、このシーンは、こうした方がウケるんじゃないかな、とか、考えてしまう自分はいますね。(笑)
ご自身の当初の意思に反して。(笑)
塚本 でも、結局は(大作であれ自主映画であれ)お客さんに自分の思いを伝えるというバランスはいつも図っているつもりなんです。ただ、自分の本当に撮りたいものは、最終的にちゃんと形になるかどうかも分からなくて、それを形にしていくことが楽しみなわけで…。自分の頭で考えたものは、作りながら、変形させていきながら、よく言えば、今まで誰も見たこともないようなものができる可能性もあるわけですから。なので、最終的に仕上がるユニークなものっていうのは、最初に皆さんに「だいたい、こういうものになります」とは提示できない、みたいなところはありますね。
監督の最終的なゴールはどこになるのでしょう。
塚本 昔からそうなんですけれど、1本1本、その時その時のやりたいものを続けていくのが一番大事なので、まだやりたいテーマがある以上、それをなんとか人生が終わるうちに作り終えたいな、というだけですね。常に「次にやりたいテーマ」はあるんですが、この予定が狂ったりするのがまた楽しいんですけども(笑)。ただ、まぁ、それをきちっと作り終えること、ですね。それに伴って自分も成長していかないと、とは思いつつ、こう、ちょびっとずつ、ちょびっとずつ…。一つの映画を作り終わるころには、自分が何らかの成長を遂げてないといけないので、そこは、なかなかスリリングな道のりではあるんですけれど。
本日、これから『斬、』の上映会です。ニューヨーカーにはこの作品を見て、どう感じてもらいたいでしょうか。
塚本 基本的に、映画は何でも自由に感じてもらって、と思ってます。そこで、意外な感想を持ってもらったりするのが楽しいですし。「あぁ、そんなふうに思ったんですか」っていうのが面白いですから。どうとでも好きに感じてもらいたいというのが正直なところなんですね。ただ、まあ、これ以上ないぐらいシンプルな形で、あまり理屈っぽくした作品ではないので、本当に、単純に、日本という国の、ひいては世界の「不安」みたいなものを共感し合えたらうれしいですね。
最後に夢を持ってニューヨークまで渡って暮らす、この街の日本人にメッセージをお願いします。
塚本 この街ってちょっと歩いても、周囲のすっごく強い意志というかオーラをバリバリに感じさせられますよね。僕は、それをポカーンとして見ちゃう側の人間なので、どっちかっていうとあぶれ者になっちゃってる人間なので、僕のようなものが何も言えることなんてないです。ただ同じアメリカ映画でも、ハリウッドに組み込まれない、例えば(マーティン・)スコセッシ監督みたいな、あえてロザンゼルスじゃなくて、ニューヨークに立たれている感じの方が僕にはピンとくるというか、憧れがありますね。またちょくちょく遊びに来たいなって思いました。
塚本晋也(つかもと・しんや) 職業:映画監督
1960年東京都生まれ。14歳で8ミリ映画を撮り始め、82年に日本大学芸術学部を卒業。CF制作会社に就職しCMなどを手がける。制作会社を退社後、劇団「怪獣シアター」を結成。89年、少人数スタッフ・低予算により16ミリで撮られた『鉄男』は単館レイトショー公開となった上、ローマ国際ファンタスティック映画祭のグランプリを獲得し、国際的な評価を得る。塚本の世界観は“都市と肉体”が一貫したモチーフとなっており『バレット・バレエ』(2000年)では、死と暴力を内包した都市に生きる人間像へと進展。製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集など全てに関与して作りあげるスタイルをとっている。2019年第8回「CUT ABOVE AWARD」for Outstanding Achievement in Film受賞。
◇ ◇ ◇
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。