岩井俊二

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映画監督になると決めた時こそが〝最大の挑戦〟だった

「ガチ!」BOUT. 236

 

岩井俊二

新作「リップヴァンウィンクルの花嫁」、公開から20年の「スワロウテイル」、代表作の一つ「リリイ・シュシュのすべて」の3作品がニューヨーク・アジア映画祭(NYAFF)で上映された岩井俊二監督。同映画祭では生涯功労賞(Lifetime Achievement Award)を受賞。そんな岩井監督にお話を伺った。
(聞き手・高橋克明)

 

NYAFFで生涯功労賞

このたびは「ライフタイムアチーブメント」受賞おめでとうございます。世界各国で受賞歴のある監督ですが、米国では初めてということなので、今のお気持ちを聞かせていただきたいのですが。

岩井 …あ、そうですね…。まぁ非常にありがたいことだと思ってます…。えっと、日本語でいうところの功労賞みたいなもんなんですかね…。そんなに(長い間)やってたのかなって(笑)。そんな感じはありますけど。

日本人では初めての受賞なのですが…。

岩井 …あ。そうなんですか…。

はい(笑)。プレッシャーとかは…。

岩井 いやぁ特にないです(笑)。いかなる賞であっても自分の中ではあまり…。そういうのに振り回されず自分の活動を続けていこうって若いころから心掛けているので。ありがたいとは思いつつ、まぁ、今後もマイペースで(笑)。ただ、もうちょっと自分に厳しく創作に挑めたらなっていう気持ちにはさせられたような気はしますけれど。

特にこの10年くらいは、アニメやドキュメンタリー、外国資本の作品などジャンルを問わず活動されてきたように見受けられましたが。

「リップヴァンウィンクルの花嫁」((c)2016 A Bride for Rip Van Winkle Film Partners)

「リップヴァンウィンクルの花嫁」((c)2016 A Bride for Rip Van Winkle Film Partners)

岩井 そうですね…。うーん、でも、映画監督という職業を自分の仕事に決めた時点で、自分にとっては“挑戦”だったんだろうと思うんですよ。それは10代の時に決めた厳しい選択だったと思うんですよね。その時の気持ちを忘れないでいようとすると、そういう軌跡になっちゃうと思うんです。

つまり、挑戦し続けるキャリアでありたい、と。

岩井 やっぱり、慣れないことを、不慣れなことを頑張ってやっていこうって、それを目標にしてきたわけなので。それが結局、10代から続いてるってだけなんですよね。まぁ体力が続く限りは、いろんなことに挑戦していきたいなぁとは思ってますけれど。

今年はあの『スワロウテイル』から20周年を迎えます。やはり監督にとってターニングポイントとなった作品でしょうか。

岩井 うーん、どの作品でも、ターニングポイントではあると思うんです。どの作品も、自分に次のチャンスを与えてくれたし、ときにはダメージも与えてくれたし(笑)。(熟考)…多分、自分にとって映画を作るっていうことは、一つの自己表現でもあるとは思うんですけれど、それは同時にアクシデントでもあると思うんです。決して、ラクで楽しいことばかりじゃない。だから、総じてその集合体が自分の人生みたいなものですね。

監督の作品が誰かの影響下にあるようには見えないのですが、普段、映画を観ることはあるのでしょうか。

岩井 日常的にはないですね。必要があれば資料として観ることはあっても基本、映画はあまり観ないです。娯楽としても、勉強としても、あまりないかな…。映画を作る際の題材を探すのに、映画から探すことはないですね。最近は対談とかで他の監督さんに会う機会が多くて、話ができないとマズいので、慌てて3日がかりでその監督さんの作品をまとめて観たりとか。(笑)

創作のインスピレーションはどこから湧くのでしょう。

岩井 それは創作中ですね。漫画を読んでいるような、小説を読んでいるような、そんな感じで創作していく感じだと思います。なので、漫画はよく読みますね。日本の大ヒットしてる漫画って本当にすごいのが多いんですよ。ドラマや映画って、ヒットしているものでも、実際に観ると「あれ?」ってことは多いんですけれど、コミック界でヒットしているものってほとんどハズレがない。

監督から見てもストーリーテリングがシッカリしているというか。

岩井 そうですね。あれだけの数がある中で、人気があるっていうのは、やっぱりバカにできない。ちゃんと読者が選別してるわけですから。バカにできないどころじゃないな、すごいですよ。

お気に入りの作品は。

岩井 最近だと、例えば『東京喰種(トーキョーグール)』とか『亜人』とか『アイアムヒーロー』とか。あとずっと読んでいる『HUNTER×HUNTER』っていうのもすごいです。まぁ昔からずっと読んでいる『(闇金)ウシジマくん』は長きにわたる名作ですしね。

いっぱい読んでいらっしゃいますね。

岩井俊二岩井 いっぱい読んでます。やっぱり漫画という世界で、物語を作っている人たちには、シンパシーを感じますね、うん。皆さん、毎週、毎週、新しく物語を描かなきゃいけない。そんな立場でやられている。ライバルっていうより、目標かもしれない。僕も昔、漫画家を目指していたことがあるのでそう言った意味では漫画界では挫折者なわけですよ。そんな僕からすると、漫画界って高みにあります。だから漫画界に近寄っていくとエネルギーをもらえます。そんな情熱と、そんなペースでやっている人に、映画界ではほとんど出会わないですね。そこまで一生懸命、物語と向き合ってる人には、日本の映画界では遭遇しないです。なので、そっち(映画界)に合わせないようにしています。やっぱり頑張ってる人たちに注目していかないと、オリンピックのアスリートたちを見ているとエネルギーをもらえるますよね。(同じように)漫画家からいっぱいエネルギーもらえますね。

なるほど。監督はロサンゼルスに住まれていますが、以前、インタビューでニューヨークの方が好きと答えていらっしゃいました。『New York, I Love You』という作品も撮られた、この街の印象をお聞きしてよろしいでしょうか。

岩井 ロスとニューヨークってだいぶ印象、違いますよね。街だけじゃなく、人も違うかなって思います。まあロスは車社会なので、夜お酒飲みに行っても、1軒目が終わったら、そこで解散しちゃいますけど、こっちだと、友達と飲みに行くと、地下鉄で行ったり来たりしていろんなバーを巡ったり、2軒3軒回ったりとか、友達付き合いも濃い印象がありますね。まぁ、撮影ってことを考えると、街の雰囲気はやっぱりこっちの方が撮影したくなるかなぁ。自分の性には合ってる気がします。それに僕も北国の出身なので、冬にちゃんと雪が降る街の方が好きなんだと思います…。まあ降り過ぎられると困るんですけどね。(笑)

それでも活動拠点をLAにされている理由はなんでしょう。

岩井 まぁ活動拠点と言っても、プロジェクトごとですので、意外とバックパッカーみたいな暮らしをしてるんですね。ロサンゼルス、上海、日本と行ったり来たり。でも「3・11」があって以降の5年間は、作家としてこういうことがあった日本をちゃんと見ておきたいなと思ったんです。もし震災がなければ、あのままアメリカにいたと思うんです。

「3・11」以降、表現者として変わらざるを得なかったことはありますか。

岩井 ………うーん……自分自身が変わったことはあまりなかった気はします。震災そのものを体験したわけではないので。ただ、長い目で見たときに日本が大きく変わる節目だったと後々考えられることだったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれないし。それはやはり時間が経たなきゃ分からないことだとは思うんですね。ただ…少なくとも、いろいろなことがあった時代…とは後々になっても言えるんじゃないでしょうかね…きっと…たぶん…。

最後に。ニューヨーク来られた時に必ずやられることはありますか。

岩井 うーーーーーーん……なんだろ。あ。セントラルパークには行きますね。ニューヨークに来ると、やっぱり歩きたくなりますよね。意味もなく。トコトコと。こう、通りをのぞきながら(笑)。でも、実は、歩きづらいんですよね(笑)。人が多いから。LAは人が歩いてないけど、こっちは人が多いので。でも、歩きますね。できるだけ、Tシャツに短パンで「何も持ってませんよ」って感じで。(笑)

 

★インタビューの舞台裏★ → ameblo.jp/matenrounikki/entry-12183561868.html

 

岩井俊二

岩井俊二(いわい・しゅんじ) 職業:映画監督
1963年生まれ。宮城県仙台市出身。88年よりドラマやミュージックビデオ、CF等多方面の映像世界で活動、注目を浴びる。映画監督・小説家・作曲家など活動は多彩。監督作品は「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(93)、「Love Letter」(95)、「スワロウテイル」(96)、「四月物語」(98)、「リリイ・シュシュのすべて」(01)、「花とアリス」(04)。海外にも活動を広げ、「New York, I Love You(3rd episode)」(09)、「ヴァンパイア」(12)を監督。2012年復興支援ソング「花は咲く」の作詞を手がける。15年2月に長編アニメーション「花とアリス殺人事件」が公開し、国内外で高い評価を受ける。

 

〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。

 

(2016年7月16日号掲載)

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