甘やかされず、甘えず NYはいつも高い意識を持てる場所
「ガチ!」BOUT.62
ジャンルにとらわれない質の高い音楽を制作し続け、あらゆる世代から支持されるシンガーソングライターの矢野顕子さん。通算27枚目となるアルバム「akiko」を引っ提げ、10月に2年ぶりとなるニューヨークライブを決行、大盛況のうちに終了したばかり。来月にはことし2回目の同地でのライブも予定。二つのライブの前にニューヨークでの音楽活動、生活についてお話を伺った。(聞き手・高橋克明)
2年ぶりにNYで2回のライブ 新アルバムや音楽活動への思い
今度の10月6日(火)と11月18日(水)にニューヨークでは実に2年ぶりのライブです。
矢野 そうですねえ。すごい楽しみです。それぞれ違う人たちとやるんですけど10月の方は東京のブルー・ノートでやってた仲間たちとですね。
日本公演時と同じメンバーでのぞまれるという事は、このメンバーにこだわりがあると。
矢野 3人ともニューヨークが好きでずっと住んでる人たちだし、知り合って長いんです。ウィル・リーもクリス・パーカーも非常に古い友達なんですね。ウィルなんて、初めてあったのは197…6年だったかな。でもなかなかニューヨークで一緒にプレーする機会がなくて。確かにこのトリオでニューヨークでやるのは初めてですね。東京ではとても盛り上がったので、楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。
矢野さんにとって会場となるJoe’s Pubはもう何度も公演をされている思い入れのあるクラブと思うのですが。
矢野 うん、好きですね。
あのクラブの雰囲気と矢野さんの声が非常にピッタリな感じがします。
矢野 この街の、特にニューヨークのダウンタウンにちゃんと立脚しているという、その存在自体が(好きです)ね。それからアスタープレイスって活気のあるところだし。
はい。
矢野 演奏中、まだ7時くらいだと外が見えるんです。夏の早い時期だと、外から覗いてるお客さんの顔が、見えるしね。
あ、演奏中に?
矢野 そう。それから地下鉄の通っている音が下から聞こえてきたり、そういうのがいいですね。
演奏中に観客の雰囲気って感じ取ることはできるのでしょうか。
矢野 もちろん。その場の雰囲気で直前に曲順を決める事もありますね。
日本人の観客とアメリカ人の観客、どちらが多い方がやりやすいですか。
矢野 う〜ん…別物。英語(の歌)は母国語ではないので口の開き方とかそういうエキストラな努力はしますけど、でもやる気持ちとしては同じだと思いますね。やっぱりその曲、その歌を伝えたいと思ってるので基本は同じです。
今度のライブは観客にどういったところを感じてほしいでしょうか。
矢野 今度のは楽しい曲が多いんです。躍動的で、こう、体が自然に動いてくリズムのものが多いので感じたままに楽しんでほしいですね。あとはあたしたち3人の、年は近いんですけどそれぞれ違う場所で育ってきた、それぞれの音楽、それをまた60年代のアレンジしたものを楽しんでほしいですね。
矢野さんのライブは、始まった瞬間に会場が矢野さん一色になりますが、そんな矢野さんでも演奏前に緊張される事はあるのでしょうか。
矢野 たまに緊張しますよ。どんな時にって言えないけど、演奏前は、ホントにたまぁに。でも演奏最中は音楽に没頭してるから、緊張はしないかなぁ。
今回出された全曲英語のアルバム「akiko」のプロデューサーは、グラミー賞を何度も取るほどのカリスマ・ミュージシャン、Tボーン・バーネットさんですが。
矢野 ええ、すーごい方です(笑)。すごすぎる方ですから、あたしのプロデュースなんて無理だろうと思って。で、ダメもとで聞いてもらったら、すぐやりましょうって返事をいただいて。あたしもスタッフも、もう驚くしかなかったんですが、聞いてみたらあたしのデビューアルバム、「ジャパニーズ・ガール」を彼はとっても好きで忘れられないって言ってくれてて。マネージャーに、彼にプロデュースしてもらいたいアーティストは、あたしの前に500人は待ってるって言われたりして…。だから、500人をごぼう抜きにして、やってもらいました。(笑)
矢野さんはニューヨークにお住まいですので、こちらの日本人のファンの方から、もっと定期的にライブをしてほしいという声が、編集部にもよく届きます。
矢野 そうですねー。少なくとも半年に1回くらいはやれるようにしたいなって思ってはいるんです。思ってはいるんですけどねえ…。
以前、歌手の古内東子さんにインタビューさせていただいた時に、彼女が前回の矢野さんのジョーズ・パブでのコンサートに非常に感化された、とおっしゃってました。矢野さんのライブを実際にご覧になられて、ご自身も同じ場所でライブをされたんですね。
矢野 あー、そうですかぁ。そうなんだ。どうしてもねえ、日本での活動を優先させると実際に日本に行く前から準備とかレコーディングとか曲を書き溜めたりとか、なかなかニューヨークでライブする準備がなくなっちゃうんですよ〜。でも今後は日本もニューヨークも他の国も、同じくらいにできる態勢が整ってきているので、これからはもっとできるようになると思います。
5年前にインタビューさせていただいた時に、ニューヨークにいることが一番好きっておっしゃっていたことが印象に残っています。
矢野 本当になんだろうねー。ここがあたしにとって一番いいところなんだなーって思います。甘やかされず、甘えず、いつも高い意識と志を持てる場所だと思いますね。
ヘンな質問ですが、こちらにお住まいということはマンハッタンで晩御飯のお買い出し、なんてされることもあるんですか。
矢野 うん。なんで?
普通にお買い物されてて、日本人にびっくりされませんか。
矢野 あ、時々ありますよ。日系のスーパーとかで。
日系のスーパーにも行かれるんですね。
矢野 ミツワも行くし、サンライズも行くよぉ。
矢野顕子がサンライズ・マートでかご持って。
矢野 そうだよ、でも普通でしょ。前なんかね、ウエストチェスターに住んでたとき、大道でね、
(笑)。はい、大道で。
矢野 いろいろ買ってたら、まだブログなんてない時代にソーシャル・ネットワークに今日、矢野顕子が大道で何々買ってましたって書かれちゃったりして、
あはははは。
矢野 だったら、見栄張ってもっと高いもの買っときゃ良かったってね。(笑)
矢野顕子(やの あきこ)職業:シンガーソングライター&ピアニスト
東京生まれ・青森育ち。3歳よりピアノを始め、高校時代よりセッションミュージシャンとして活動。1976年アルバム「ジャパニーズガール」でデビュー以来、YMOとの共演、ピアノの弾き語りによる「出前コンサート」を始め、ポップスのフィールドにいながらも常にジャンルにとらわれない自由で、ユニークな質の高い活動を続けている。90年渡米。2001年、音楽制作の拠点をマンハッタンに移し、ミュージシャンとして女性として、独自の活動をしていく。08年秋には、JAPANESE GIRL時代から矢野のファンであったTボーン・バーネットのプロデュース制作(主にLAでレコーディング)による、27枚目のオリジナルアルバム「akiko」がリリースされた。公式サイト:www.akikoyano.com/
〈インタビュアー〉
高橋克明(たかはし・よしあき)
専門学校講師の職を捨て、27歳単身あてもなくニューヨークへ。ビザとパスポートの違いも分からず、幼少期の「NYでジャーナリスト」の夢だけを胸に渡米。現在はニューヨークをベースに発刊する週刊邦字紙「NEW YORK ビズ」発行人兼インタビュアーとして、過去ハリウッドスター、スポーツ選手、俳優、アイドル、政治家など、400人を超える著名人にインタビュー。人気インタビューコーナー「ガチ!」(nybiz.nyc/gachi)担当。日本最大のメルマガポータルサイト「まぐまぐ!」で「NEW YORK摩天楼便り」絶賛連載中。
(2009年10月24日号掲載)