〈リアル〉File 6 実業家 輝咲 翔さん

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〜「夜の帝王」からパワーストーン事業運営へ〜

何かを続けていくのなら人に喜んでもらう事がいい

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弱冠30歳で一大キャバクラグループをつくり上げた「夜の帝王」こと輝咲翔さん。その生きざまは日本で漫画化、ドラマ化されるなど話題になった。現在は、築き上げたグループの経営運営を後進に譲り、東京、ロサンゼルス、ハワイを中心にパワーストーン事業を展開している。ニューヨークへの進出も視野に入れているという輝咲さんに今までの半生、これからのことを聞いた。

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 「達成感、ないんです。まだ全然…」  わずか数年で首都圏に数十店舗のキャバクラを経営、海外進出まで成功させた事業の年商は20億円を越え、(文字通り)ドラマの主人公になりうる半生を送ってきた男は屈託のない笑顔でそう答えた。
「ホストの帝王」輝咲翔について、今さら書くべきことはないのではないか、とも思う。すでに実在の彼をモデルとした小説、コミックがこの世に存在し、今や日本のテレビドラマまでその生きざまを十分に知ることが出来るのだ。

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 トラックの運転手から、一転、夜のホスト業界へ。「一滴も飲めない」ホストデビューから、その人柄と情熱で数年後には十数店舗を抱える「KIZAKI GROUP」のオーナーにまで上り詰める。
自身が初めて持った店舗はオープンから2週間で火事のため全焼。「当時は火災保険って存在さえ知らなくて」、22歳でいきなり数千万円の借金を背負う。その後も人にだまされ借金の額はさらに増えていく。「なんで、こんな事ばかりが自分の身に起こるんだろうって(笑)。でも結局、頭で考えてても解決しないんですよね。逃げ出さずに受け止められるか。何かに、誰かに今は試されてる、そう思うようにしていました」。確かにそこから再生していく過程はまさしくドラマであり、すでに多くの人が知るところの話である。「絶対、失敗しない人間はいないと思うんです。だったらたくさん失敗した方が自分自身が成長できるチャンスだと思いました。騙されたり、失敗してきた事を開き直って自分のプラスに変えていく、そして最後に1回でも成功すれば、それはそれでいいんじゃないかって」
従来の「成功者の話」は普通にそこで完結する。

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漫画「帝王」(小学館、全8巻)

漫画「帝王」(小学館、全8巻)

しかし、そこからが輝咲の面白いところであり、彼の本当の魅力なのかもしれない。その輝かしいまでのポジションをあっさり後進にゆずり、また新たな挑戦をしようとしているのだ。
「お店が1件、1件、増えていくこと自体に魅力を感じてたわけじゃないんです。どうせ何かを続けていくのなら、人に喜んでもらう事の方がいい」
人のためになる事をしたいー。
ホスト時代から一貫して変わらぬ、その考えにたどり着いた先がパワーストーンビジネスだった。パワーストーンとの出合いは今から4年前、ハワイでの留学時代だった。ハワイの海は海面下50センチ辺りまでマイナスイオンが発生し、そこにいる人間の体はしんから浄化されるという。「いるだけで気持ちが穏やかになって、ハワイが自分にとって特別な場所になりました」。そこにある石はお守りになり、頑張るためのアイテムになるはず。
生年月日で守護石が人それぞれ違うパワーストーンは、その人その人のオリジナルをオーダーメードもできる。
「それぞれ人の生年月日にあてはまることができて、自然のもので、なおかつ身に着けられるものってなかなかないですよね」
今は東京・六本木に「パワーストーンサロン Malulani(マルラニ)」を設立し、ニューヨークへの進出も視野に入れている。そして「特別な場所」ハワイにも2ヵ月に1回は仕事とプライベートを兼ねて「元気をもらいに」訪れる。
目の前の、話すだけでその場の空気が優しくなる雰囲気を持つ彼はどうしてもナイトビジネスの成功者のイメージと結びつかない。
「夜のネオン街より、自然(の中)の方が自分の性には合ってるんですよ」
「帝王」というドラマの主人公のモデルまでなった男は、本来の自分の姿のため、あっさりとその世間的価値あるイメージを脱ぎ捨てる。

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   最後に彼が今まで何度もされてきたであろう質問、ビジネスを成功させる秘けつを、あえて聞いてみた。こちらが予想していた通り輝咲はさわやかに一言、「分かんないです」と笑う。
ビジネス雑誌に取り上げられる、後付けのような理念を熱く語る会社経営者たちとは明らかに趣が違う。
「前をしっかり見て、現実を受け止めていく。ホントそれくらいしか僕には言えないんです。でも成功者って何が成功者なのか分かんないですよね。普通に結婚して、普通に子どもを育てて、普通に家族を養って…。それって立派な成功だと思うんです。『今が満足』って胸を張って言うことができる人はみんな成功者って言えるんじゃないでしょうか」(敬称略)

パワーストーン

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「パワーストーンサロン Malulani(マルラニ)」(本店:東京・六本木)を経営。マルラニとはハワイ語で「神のご加護」を意味するという。  誕生日やさまざまな角度から計算して選び出した守護石をもとに、個々に合ったブレスレット=写真=を完全オーダーメード。持ち主を守り、願いや希望へ向かってサポートをしてくれる守護石ブレスレットは、多くの著名人にも愛用されている。 公式サイト:http://www.malulani.tv.

〈profile〉 きさき しょう 埼玉出身。1973年生まれ。工業高校卒業後、工場作業員や大型トラック運転手を経て、ホストクラブへ転職。96年(22歳)、ホワイトデーに、お酒を一滴も飲めないにもかかわらずホストを始める。同年11月、新規オープンのホストクラブを店長として立ち上げる。翌年、店の火事をきっかけに、ホストクラブからキャバクラへ転向。1号店を出店。以降首都圏を中心にキャバクラチェーンを展開。2001年に、グループ統括会社を設立しオーナーとなる。その3年後、視野を広げるためにロサンゼルスへ移り住み、その2年後ハワイへ発つ。07年、新たな挑戦として活動拠点を海外に移しKIZAKI GROUPの経営運営を後進に譲る。同年11月、ロサンゼルスの中心に洋服、雑貨などのセレクトショップ「LALLURE(ラルール)」をオープン。現在、東京六本木にて「パワーストーンサロン Malulani(マルラニ)」を運営する。公式サイト: www.kizaki.tv/

(2009年10月31日号掲載)

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