音楽に関しては絶対に手は抜かない
〈リアル〉File 1
ニューヨーク在住のヴァイオリニスト、大倉めぐみさん。マイケル・ブレッカー、リー・コニッツ、スティーブ・スワロー、ダイアン・リーヴスなど、著名アーティストのツアーやレコーディングに参加する傍ら、ソロヴァイオリニストとしても活躍している。「シルク・ドゥ・ソレイユ」の「ヴァレカイ」「ウィンタック」ではパフォーマーを兼ねるヴァイオリン・プレーヤーとして参加。現在も、日本で上演中の「コルテオ」に出演している。
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―メグさんはこうやってお話しされてる時と舞台の上でのギャップがすごいですよね。ステージ上だとすごくいい女に見えます。
大倉 普段は見えない。(笑)
―この人、ホントに弾けるのかな、とは思ってしまいますね。(笑)
大倉 でも気持ちは舞台の上も、そのまんまなんですよ。普段のまま。気取ったりはできないし、カーネギー(ホール)で弾こうが、ドームで弾こうが。
―ヴァイオリンを始めて、今キャリアは何年目ですか。
大倉 4歳から始めたので、えーっと年齢が分かっちゃうので言わない方がいいかな(笑)。きっかけは母親が私の絶対音感を発見したんですね。2歳くらいの時には、しゃべるのと同時にドレミが分かっちゃったんですよ。だから当然のように音楽させようってことになったらしいです。
―ヴァイオリン以外にもピアノもされますよね。
大倉 ピアノは5歳のころからですね。地元の教会では楽譜なしの即興で弾いてました。その場で、オルガンとの伴奏をしていましたね。しかもノーギャラで。(笑)
―ギャラの話する5歳児は嫌です(笑)。じゃあ、お母さまに感謝ですよね、4歳からヴァイオリンを持たせてもらって。
大倉 そうですね。結局、今の私がいるのは音楽があるから。ヴァイオリンを弾く事によって、素晴らしいアーティストたちと一緒に演奏してこれたわけですから。だからこそ音楽に関してはすっごく努力します。手を抜くような事は絶対にしませんね。
―自分がもしヴァイオリニストでなければ何の職業に就かれてましたか?
大倉 どちらにしろ音楽の関係する仕事に就いてましたね。ちっちゃいころは作曲家になりたかったんですよ。そうしたら母に女の子は作曲家にはなれないんだよって。女の子はヴァイオリンでも弾いていなさいって感じで言われたんですね。でもそれはやっぱりある意味正解で作曲っていう分野になるとアメリカであったとしてもまだ差別はあるんですよ。
―へー、そうなんですか。
大倉 CD作りますよね。プロデュースに私の名前が書いてある。すると聞かれるのは「本当は誰が作ったんだ?」です。自宅にスタジオを持ってて、自分で何十本っていうコードつなげて、校正して編集して録音して何百時間かけて作ったものを信じてもらえないんです。女の私が作ったという事実だけで。最初から決めつけられちゃうんですね。そこは嫌というほど悔しい思いをしました。
―では、逆に女性の音楽家として良かったなと思った事はありますか?
大倉 いやー、もし選ぶ事が出来るなら男に生まれたいと思いますね。(笑)女性で得した事なんかあるかな? なんかありました?
―僕ですか? いや、女性じゃないです。
大倉 いやー、なんかあるかしらねー。(熟考)
―そんな考えるほど(笑)。では質問を変えて、そんな嫌な思いをして、それでも音楽を続けられるのはなぜでしょう。
大倉 やっぱり好きだから(笑)。それしかないですね。私がジュリアード(音楽学院)に入学した時も周りを見ると、ヴァイオリンさえ弾いてたら僕はこのまま死んでもいいって感じの人ばかりだったんですよ。あ、私は違うなって。私は音楽をもっと幅広く愛していきたい、せっかくニューヨークにいるんならビレッジにもジャズを聴きにいきたい。彼らはあの57丁目のあの敷地内から一歩も外にでないんですよ!
せっかくこんな素晴らしい街にいるのに。そうはなりたくないんですね。
―ニューヨークの魅力ってなんでしょうか。
大倉 やっぱり“人”だと思いますね。住んでる人たちだと思います。私が私でいられる唯一の場所です。自分が自分らしく生きていけて。ニューヨークって、そういう人がいてこそのニューヨークなわけですよ。私みたいな人がいなかったら、ニューヨークはニューヨークじゃなくなってしまうわけですよね。…なんとなく、分かります?
―分かります。(笑)
大倉 今から多分、東京に住んでも私はよそ者だと思う。でもニューヨークはここは私のホームだと思える、思い出させてもらえる。それがニューヨークですよね。私たち自身がニューヨークの一部ですから。
〈profile〉 おおくらめぐみ 作曲家、ヴァイオリニスト、胡弓奏者。東京都出身。ニューヨーク在住。桐朋学園女子高校音楽科を首席で卒業後、渡米、ジュリアード音楽院を卒業、同大学院修士課程修了。各種コンクールで優秀な成績を修める。リーダーバンドの「Pan Asian Chamber Jazz Ensemble」では、数々のジャズフェス参加、全米テレビ出演などを果たす。公式サイト:www.megokura.com
(2009年2月21日号掲載)