【寄稿】NYタイムズで紹介された盛岡/在住ライターならではの魅力を紹介

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冷麺、「ほや」、りんご、キノコ、日本酒、鉄瓶がオススメ

岩手県(青森県だと思っている人もいるので念の為)盛岡市は今年1月にNYタイムズ(米新聞)に取り上げられている。鎌倉在住のアメリカ人であるクレイグ・モドさんというライターがNYタイムズの「2023年に行くべき52カ所」に盛岡他幾つかを推薦したところ、ロンドンに次いで第2位に選ばれてしまったのだ。
盛岡市民は「何でだろう?」「どうせ一過性」とさして喜ぶ様子もなかったが、盛岡市長や県知事は大興奮。モド氏を盛岡に招待して地元紙で大々的に対談を掲載したりTV局もゲストに迎えたりとVIP待遇だった。半年も過ぎて熱も醒めた頃、今度は市はニューヨークに乗り込んで盛岡のPR活動をしよう、という事になった。

日本へのインバウンド客と言えば台湾、韓国、中国、香港などのアジア諸国である。「訪日ラボ」によると彼らの訪問先は三大都市圏が7割以上を占める。岩手のインバウンド客数は2020年度1~3月は、台湾、香港、オーストラリアの順で、オーストラリアが食い込んだのは特筆に値する。これはスキー客だろう。この事からも岩手がPRに力を入れるべきなのはアジアとオーストラリアという事がはっきりしてくる。県の観光政策の重要国に、アメリカは入っていない。それなのに、なぜニューヨークなのか。

盛岡市交流推進部観光課によると、NYタイムズに載ったから現地のイベントに参加したり在NY関係機関を訪問して盛岡市への誘客促進につなげる為、という事だ。
という訳で今年8月、盛岡市職員やミスさんさ踊り、わんこそば事業者の総勢16名がブルックリンのジャパンビレッジの夏祭りに参加とあいなった。
1分間に30杯平らげたアメリカ人男性は大変ラッキーな事に日本への往復航空券や盛岡までの新幹線代などを獲得している。(わんこそばの早食い競争の様子はユーチューブでも見られる)
今回のPR活動によって一体何人のニューヨーカーが盛岡に来てお金を落としてくれるのか、かつてニューヨークに住み、ハーレムに日参して『ソウルフル! A列車に乗ってハーレムに行こう』を上梓した私としてははなはだ懐疑的である。が、里帰りする日本人の中にはもしかしたら(行ってみるか)という方もいるかもしれないので少し盛岡を宣伝させてほしい。

イベントで披露したさんさ踊りだが、これは東北三大祭には入っていないし、地元民が熱狂的に支持しているお祭りでもない。わんこそばにしてもやはり地元民は食べに行かない。県外からやってくる知人友人が行きたいと言えばつきあう程度で、「一度行けば十分」と思っている。私も東京から親戚が来た時に「直利庵」に一度行ったきりである。

盛岡市の朝市。りんごとキノコが売れ筋(提供写真)

↑↓盛岡市の朝市。りんごとキノコが売れ筋(提供写真)

では盛岡で見るべき、食べるべきものは何なのか。
食べ物では冷麺。これはニューヨークのコリアンタウンで食べる冷麺とは一味違い、歯ごたえのある大変美味な盛岡三大麺の一つである。もう一つのじゃじゃ麺は好き嫌いがあるのでここでは紹介しない。
私の一押しは他県人は「くさい」「まずい」と毛嫌いする「ほや」である。まずいのは鮮度が悪いからで夏のほやほど微妙な味わいのする貝はない。北海道生まれの有名シェフ、三國清三氏もほやの旨味を絶賛している。三つ目は盛岡の名物のりんご。盛岡市には神子田の朝市という季節の新鮮な野菜や果物が生産者から直接買える「ファーマーズマーケット」でベトナム人やバングラデシュ人なども訪れる。欧米人の姿は見かけない。そろそろ出回る大玉のりんごは、アメリカでは見かけないサイズ。味も素晴らしい。天然のまつたけや、ニューヨークでも人気のマイタケも美味しい。そして日本酒。岩手には日本三大杜氏の一つ、南部杜氏がある。
ニューヨークでも飲める南部美人やあさ開の他に、鷲の尾という美酒がある。おみやげには少々重たいが鉄瓶。そして宿は温泉。盛岡駅から送迎バスが出ている、つなぎ温泉や、バスで行ける松川温泉は秘湯ムードたっぷりである。
盛岡におでんせ。

盛岡在住ライター・工藤明子

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