【NY歴史問題研究会 通信】vol. 11 明治の日本と日本人(3)日露戦争に学ぶ先人の気概

0

国家目標の到達など「まさに明治の奇跡」が集約

第65回例会(1月例会)

ニューヨーク歴史問題研究会は1月25日、第65回例会(1月例会)「明治の日本と日本人(3)―日露戦争に学ぶ先人の気概―」を開催した。明治150年の節目にちなんだ共通テーマの第3弾。大国ロシアとの戦いに臨んだ日本人の覚悟やその勝利がもたらした世界的な影響などを中心に語られた。

同会会長の髙崎康裕氏が講演の冒頭に「これからの日本人の行く末を考えるヒントが明治の日本にあるのではないか」とし、共通テーマを取り上げる意味を改めて語った。

髙崎氏の解説に聴き入る聴衆

髙崎氏の解説に聴き入る聴衆

まず、最初に日清戦争後の三国干渉が取り上げられ、下関条約で割譲を受けた遼東半島が“奪われた”経緯が詳しく説明された。

日清戦争の後、清は列強に分割されるが、反列強として「義和団事件」が起こる。8カ国連合軍が派遣され日本が最も多く派兵し、これを鎮圧した。その際にロシアは満州(現中国東北部)の鉄道敷設権を得て、建設に着手。こうして満州に居座ったロシアへの対抗措置として日英同盟が締結された。アジアの小国が英国と同盟を結ぶ決め手となったのは「義和団事件」での日本兵の活躍であった。このように「先人たちの努力によって国が評価されるということは当時からあった」と説いた。

ロシアはその後、朝鮮半島の龍嚴浦に軍事基地を建設するなどした。日本は本格的な外交交渉を行ったが、決裂し、明治37(1904)年2月8日に日露開戦となった。この開戦に際し当時の世論の動向なども詳しく解説され、『万朝報』では記者の幸徳秋水らが退社はするが開戦に反対はしないという動きをとったことに際し、「大逆事件を起こした幸徳秋水ですら日本国民という意識は持っていた」と述べた。

日露戦争の経過が、貴重な写真や地図とともに詳しく解説された。特に「軍神第1号」となった廣瀬中佐が取り上げられた。中佐の行動は文部省(現・文科省)唱歌にもなり、教科書や絵本となって、「国のために戦った人たち」が子供たちに“伝承”されたという。

廣瀬中佐に関する唱歌や絵本を紹介

廣瀬中佐に関する唱歌や絵本を紹介

次に、旅順のロシアの要塞を写真を示しながら詳細に説明した。ロシアに甚大な衝撃を与えた「白襷隊(しろだすきたい)」も、総攻撃前の全員の集合写真付きで紹介され、髙崎氏は彼らの攻撃があって旅順要塞を占領することにつながると解説した。

旅順攻防戦の勝利についてセバストポリの戦いなど世界各国の戦いと比較し、いかに「短期間で少ない犠牲」だったかを詳しく説明。勝因は「陸戦の技術と勇猛果敢な日本兵、そしてそれをまとめた乃木大将がいたから」とした。

水師営の会見においての日本の相手を重んじる行動に世界が感動したことも紹介された。次に最後の陸の大戦闘である奉天会戦と、バルチック艦隊と連合艦隊と激突した日本海海戦が地図や図を用いて詳細に解説された。

前半の最後は、髙崎氏に依頼され、ニューヨーク倫理友の会理事長のリンゼイ芥川笑子氏が尋常小学唱歌の『水師営の会見』を歌って、休憩となった。

休憩後は、日本人の精神に焦点を当てての解説が始まった。まず、戦費を調達に当たってのジャイコブ・シフという米国銀行家や高橋是清、桂太郎といった“銃後で戦う”人々が紹介された。日本海海戦に勝利したものの疲弊しきっていた日本は早期講和を目指し、ポーツマス条約を結んだが賠償金が取れず、これに怒りを爆発させた国民によって日本全土に暴動が起こった。これには言論人の責任が大きいとし、今でも疑問とされるとした。

多大な犠牲を払った日露戦争に意味とは何か。①領土割譲の阻止②白人国家ロシアに勝ったということは文明史的大事件③国家目標の到達|を挙げ「まさに明治の奇跡」と髙崎氏は述べた。乃木大将の戦後について触れ、明治天皇の崩御とともに自決したことに夏目漱石ら文学人が影響を受けたことも紹介した。

明治時代の「輝かしさ」は西洋列強に肩を並べながら本来の日本人の心の在り方を常に見つめて「誠」を貫くことが自分の生きる道だと信じた人間が次から次へと現れた時代だったからと、髙崎氏は説いた。

また髙崎氏は、昭和天皇、今上天皇のたたずまいに乃木大将が残したかった「明治の精神は今も生きている」と語った。「五箇条の御誓文」を昭和天皇が敗戦後に引用したことにも触れ、民主主義はもともと日本にあったと強調した。最後に明治天皇の御製を紹介して講義を締めくくるとほぼ満席となった会場は拍手で包まれた。

昨年「少し内容を易しくしてほしい」との要望を受け、これまで以上に丁寧な解説がなされ、講義に使う言葉も易しいことが選ばれていた。唱歌を歌ってもらうといった今までない楽しみも加わり、参加者らは満足そうに会場を後にした。

(2018年2月10日号掲載)

(過去記事はこちらでまとめてご覧になれます)

Share.