メトロポリタン美術館で「源⽒物語」展、6月16日まで
ニューヨークのメトロポリタン美術館(THE MET)で6月8日、漫画『あさきゆめみし』の作者・大和和紀さんを迎えたトークイベントが開催された。
同美術館で開催中の「源氏物語」をテーマにした展覧会「The Tale of Genji: A Japanese Classic Illuminated」では大和さんの漫画『あさきゆめみし』の原画も展示されており、その関連イベント。トークホストは同展共同監修者で、ハーバード大学で日本美術文化学の研究で教壇に立つメリッサ・マコーミック教授が務めた。
まず、マコーミック教授が登壇し、スライドを使いながら、大和さんの略歴をデビュー作品から詳しく紹介。『あさきゆめみし』では印象的なシーンを何枚も出しながら、源氏物語を20年近くにわたって教えてきた教授ならでは丁寧な解説を加えた。
大和さんが登壇すると、会場からは大きな拍手が湧いた。大和さんは「漫画というものは紙に印刷して成り立つもの。美術館から(原画の展示)の話をもらった時にはびっくりした。ましてメトロポリタン美術館なので、最初は冗談かと思った」と語り、「多くの人に見てもらって光栄」と笑顔で感激を表した。
トークはマコーミック教授から大和さんに質問するという形で、まず『源氏物語』を漫画にしようと思った流れなどを尋ねられた。大和さんは「漫画というものは1枚の絵で全てが一瞬で分かるもの。『源氏物語』がみんなに読んでもらいたい作品。現代語訳を書くよりも漫画という表現分野で描いた方が内容を頭に入れてくれると思い、ぜひ漫画化したいと思っていた。(連載開始)当時は、作画資料も乏しかったので、3人ぐらいの友人に声を掛けたが、皆に断られたので、自分で描こうと思った」と述べた。
漫画の書き方、仕事場の紹介の後、『あさきゆめみし』を深く追っていった。
最初にビジュアル面が取り上げられ、建築物、小物を描くにあたっての苦労が語られた。当時、ビジュアルの資料といえば、絵巻ぐらいしかなく、これは参考にならないという。大和さんは京都御所の縁の下などを写真に撮って資料にしたり、映画撮影で使われた牛車の中を見たりして、漫画にしていったという。衣装も絵巻では分からず、再現されたものを見に行き、初めて分かったと語り、「体を張って取材をしている」として十二単を実際に着てみた話を披露した。
「源氏の死の章は、とても印象深くてすてきだと思う」と教授が述べると、大和さんは、原作にない源氏の死をどのように読者に伝えるかと長い間悩んだ末、明石の上が紫の雲の情景を見て悟るという形にしたと語った。
最後に、作品が源氏の死後の物語である浮舟で終わるにあたっては「『源氏物語』は恋愛もので始まったが、紫式部が描きたかったテーマは女性の自立。本当に弱かった浮舟が一人の自立した女性として生まれ変わるシーンをこの物語の完結にしたいと思った」と語った。
教授がイベントを締めくくると、日本人だけでなく、多くの現地の人が詰め掛けた会場からは拍手が鳴り響いた。
イベント終了後のインタビューでは、初の海外での原画展示で実際の展示を見て「感動した」と語り、「1000年間読まれ続けたものだから、もっと知ってほしい」と語った。
同展覧会は6月16日まで。
(2019年6月15日号掲載)